誰にでもプチ幸せはある
神だって100パーセント極悪非道じゃない。
神サンから見放されたような人生を送っている人でも、ひとつやふたつ何か好きなことがあって、それをやっているときだけは幸せを感じる・・・ということがあるのではなかろうか。
たとえば中高年のサラリーマンが、昼休みに、昼食をすませて爪楊枝をくわえながらしんどい職場へもどるとちゅう、すれ違う若いピチピチしたOLの胸や尻を、見ないフリしてチロチロ見るときとか、便秘ぎみの主婦が流しに立っていたら、なぜかふいに内部要請が高まるのを感じてトイレへ駆けこみ、数日腸に溜めこんでいたものを一気に外に出すときとか。・・・・
うちのカミさんも同類のプチ幸せをもっている。
朝起きたときにまず空を見る。どこかに少しでも青空が覗いていたら、すぐテレビのスイッチを入れて天気をチェックする。そして1日まあまあ晴れそうだとわかると、外していた入れ歯を元に戻した口のように元気になる。いきなり10歳くらい若返って、狭い家のなかを走りまわる。よごれた衣類をピックアップ・・・というよりハンティングするためにである。
もうお分かりだろう。神がカミさんに与えたプチ幸せは洗濯だ。
まあ “洗濯マニア” の一種と言えるんじゃないだろうか。
・・・にしても、マニアの前に付くのが “洗濯” だったのは不幸中の幸いだった。
これがもし “韓流ドラマ” だったりすると、わしはプチ不幸になっていた。
その手の隣国製DVDをしこたま買いこんだ女房が、ヒマさえあればでツルンとしたイケメンばかりうっとりして見ている・・・なんていった家庭内風景は、亭主としてはやっぱり胸クソ悪い。イケメンなら身近にいるだろ、と言ってやれないからよけいカンにさわる。
さて本筋にもどるが、カミさんが天気に恵まれて “幸せの洗濯モノ狩り” をはじめるときは、当然だが、まずウの目タカの目で家じゅうを漁りまわる。老練なサファリ・ハンターのごとくどんな獲物も見逃さない。一度でも袖を通した下着類など、たちどころに捕獲されて洗濯機に奉納される。
下着だけならまだいい。布や毛糸でできているものなら何でも狙われる。ハンカチ・タオル・手ふき・台ふきんなどの拭きもの、のれん・カーテン・敷物などインテリアもの、花粉除けやウイルス除けマスクなど健康もの・・・等々なんでもハンティングの対象となる。
それがカミさん自身のものならいい。勝手にやっていただいてけっこう。蚊の足跡が付いているからと言って洗濯機にお供えしようが文句は言わん。しかし、わしの物まで何でもかんでも見境なく洗濯機の生贄にされるのは困る。
老いぼれとはいえ、わしにはわしの流儀がある。
たとえば、いつどこへ何を着て行くか・・・ということにしても、はばかりながらわしだってスケジュール表とすり合わせて、一応頭の中でコーディネーションを考えている。
にもかかわらず、その予定の衣類を勝手に洗濯機の人身御供にされ、掻き回され、こねまわされたら、困った事態が発生する。
女房は洗濯は好きだが、アイロン掛けはあまりお好きではない。で、いざ出かけようとする時になって、当方はあわてふためく仕儀とあいなる。その日は出だしでつまずくことになり、始めよければ終わりよし・・・なんてプチ幸せを味わえる機会はハナから失う。
ま、そういった洗濯ハンターのカミさんだが、値札が付いている「新品」まではさすがに手を出さない。
さらに、洗濯してから一度も着ていないものを除外するくらいの見識は、いちおう持っておられる。
だが一応である。客観的に汚れはなく、見た目にも洗濯したものと区別がつかないものでも、ときに獲物袋の中に放り込まれるケースがある。わしが気づいてその手を押さえ、それはまだ洗濯してから一度も着ていないと言っても、いや着ていると主張する。
四六時中見張っているわけでもないのに、何を根拠に、しかも自信たっぷりにそんなことが言えるのか。
・・・というと、鼻である。当該衣類に鼻を近づけてクンクン嗅ぐ。一度でも着ていると汗や垢の臭いがするという。目には見えなくても臭いは隠せない・・・と主張してあとへ引かない。
それで気づくことがある。
たしかにハンターと呼ばれる種族は、鼻が利く。警察犬はいわば麻薬や逃走犯を探索するハンターだが、武器は鼻だ。かつてマタギと呼ばれた狩猟民は、残された糞の形や臭いから、獲物の種類や年齢はもちろん今どれくらい離れたところにいるかまで分かったという。
わが家の汚れ物ハンターが最後によりどころにするのが鼻であるのは、考えてみれば不思議でも何でもないのかもしれない。
さて、こうしてかき集めたものは、洗濯機へ奉納される前にあらかじめ2種類に分類される。汚れのひどいもの(わしにはふつうの汚れもの)と、ふつうの汚れもの(わしには汚れを認識できないもの)に分けられる。
前者は洗濯機へ供えるまえに、あらかじめタライで手洗いする。
汚れが特にひどいと鑑定されたものには、強力洗剤も投入される。
そして手もみのみならず、数種のハケ等も使いわけて汚れと落とす。いうなら神殿へ上がるまえの斎戒沐浴だ。
そこまでするとタライのなかの水は少々、時によってはかなり黒ずむ。
すると彼女はわざわざわしを呼んでその黒ずんだ水を見せる。そして、
「見て、見て。こんなに黒くなるのよね」
と得意げかつ満足そうにご託宣を下す。
わしが子供のころ、田舎の家で猫を飼っていた。
その猫は外でネズミやヘビなどを捕まえると、すぐには食べずにわざわざ家に持ち帰って飼い主に見せた。半殺しの獲物とたわむれて遊ぶところを、これ見よがしにかつ自慢げに披露した。
カミさんが黒ずみ水を見せるとき、わしはいつもこの猫のことを思い出す。
そういうとき、猫もカミさんもこの上なく幸せそうである。
〔実はこの記事には、読んだ女房から猛烈なクレームが来た。経験がないからその実態をよく知らない男が、表面をかいなでして書いた軽薄な文章の典型だと。言われてみればなるほどと思うところもあるし、反論するところもあるので、対応した記事を近くに書く予定。2019年4月3日記す〕
ん~もう♪
妻と私そっくり~~~♪
私も休日にお天気が良いと(いや、前の日から天気の確認を行います)全部洗いたいのです♪
夫の椅子の上にかけてある上着!夫は「まだそんなに着てない!」と言っても、クンクンすればすぐわかります!一回は着てます!洗い時です!
衣類だけでなく、シーツ、包布、カーテンを洗うのはもちろん♪
そして干したいのです!
靴箱の中の靴も全部出して干します♪
そのすべてをやりぬいた夜の幸せ♪
すべてピッカピカでお日様の香り♪
この幸せこそが女の幸せです!
可愛そうに・・・男にゃわかるまいの~(笑)
いやーぁ、洗濯好きな女性がカミさんのほかにもだいぶ
いるなんて、この年まで生きても、まだまだ知らないことは
多いなあ。
むらさきさん、まるでうちのカミさんと同じ。いやさらに
上をいく超高級者だ・・・。
うちのカミさん、下駄箱の中の靴のヒモまでは漁りません
からなあ。
いやいや、お見それしました。