歩くメモ帳
何度も書いているが、わがカミさんは認知症を発症している。
大病院の脳神経内科で「アルツハイマー型」と診断され、介護認定で「要介護1(軽い方から3番目)」を公けに貰っている。
公けに貰ったからといって別に有難いわけではないが、有難いのは、彼女の日常の行動がシッチャカメッチャカで片時も目が離せない・・・という状態ではないことだ。
もちろん、こんご時間が経てばドーナッテイクか判らないけれど、判らないことを心配してもしょうがないので、先のことは心配しない。
あす買い物に行くとちゅう車に抱きつかれて、わしらのどっちかが、あるいはどっちもがあっちの世界へ移住することだってありうる。よけいな骨折り損はしたくない。
もっとも、日々カミさんがもたらす様々なできごと・・・正確にいえばハタ迷惑なコトどもには、少しでも迷惑が少なくなるよう、それなりに対策を講じている。
一番の迷惑は彼女の場合、主症状である物忘れ・・・短期記憶能力の喪失である。
何度も書いているのでくり返しになるが、言ったこと・したことをほぼ数秒後には忘れる。完全煮沸消毒したビンの中のように、頭の中からきれいさっぱりと消える。
実際に体験する者でなければ分からないだろうけど、ひとつ家に一緒に暮らしているパートナーの頭の中(記憶にかかわる領域)が、すっからかんの空のガラス壜の中みたいだと、やや誇張していえば、地震で窓ガラスも家具もメチャクチャになった部屋の中で生活している気分になる。
そんな気分はあまり楽しくないので、ふたりで話し合って、忘れると困ることは少々面倒でも全てメモすることにした。
最初はメモ帳と筆記用具を首からぶら下げて、必要なときにその都度メモすることにした。
だがこの方法は愚策だったとすぐ判明した。
メモ帳と筆記具を首にぶら下げること自体を、忘れるからだ。
で、メモ帳を探すが、たいていどっかへ行っちゃっている(外した時どこに置いたか忘れる)。見つけるのに時間がかかる。毎回そんなことをくり返してたんじゃ、続かない。
で、考えた。
モノに頼ると、そのモノが必ずどっかへ消えちゃうから、簡単にどこへも行かない何かにメモすればいいのだ、と。
・・・そうです。このわしにメモする。
わしだって正直いうと、どっかへ消えちゃいたい時がある。が、消えると彼女は生きていけないから、鋏や櫛みたいにそうそう気安く消えるわけにはいかない。それが現実だ。
・・・という訳で、わが家では “歩くメモ帳” が誕生したのである。
・・・ということで、忘れたら困ることは何でもわしに言って、わしの頭にメモする。
使った爪切りは裁縫箱の中段の小引き出しの中に仕舞った、とか、夜中にひどい胸焼けがして眠れなくなるときが時々ある(→ 掛かりつけ医に次にかかるとき報告する)とか、よく世話になるデイサービスの職員は○○さんという名前だとか・・・。
完璧ではないが、忘れたら困るコトになる状態はそれで多少は減らせる。
ただ問題はある。
この歩くメモ帳はいちおう生き物である。将来メモ長自体が物忘れを発症しない保証はない。
物忘れするメモ帳なんて、底が笊の水瓶と同じ。
正直にいうと、わしは現在すでに物忘れが多くなっている。
底が笊になりそうな気配がそこはかとなくある。
心配である。
当ブログは週1回の更新(金曜)を原則にしております。いつなんどきすってんコロリンと転んで、あの世へ引っ越しすることになるかもわかりませんけど、ま、それまではね。