名は体を表さない
むかし小学生のころ、山田ひろしという名の転校生がクラスに入ってきた。
山田ひろし、だなんて、いかにも凡庸そうな名前で、大したことのなさそうなヤツだと思っていたら、とんでもなかった。勉強はできるし、スポーツは万能だし、人間関係づくりもやたら上手で、たちまちクラス一の人気者になった。
それから80年近く経って、先日、内容は逆だが同じような経験をした。
夕食後テレビを見ていたら、急に胸がムカムカしてきて、気分が悪くなった。熱もあるようだ。
ま、寝れば良くなるだろうと思い、そろそろ寝る時刻でもあったので、とにかく急いで布団にもぐり込んだら、すぐ寝られた。
ところが翌朝になっても、少しも具合が良くなっていなかった。
食卓についてもムカついて、朝ごはんが食べられない。何十年毎朝かならず飲んできた牛乳さえ、一口入れただけで吐きそうになった。
年が年だし、下手にこじらせて重くなったらイヤだから、とにかく医者に診てもらっておこうと、しんどい体を引きずって出かけ、症状を訴えたら、おそらくノロウイルスだろうと言われた。
このウイルスは急性胃腸炎を引き起こす菌で、主な症状は吐き気、おう吐、下痢、発熱、腹痛などだが、効果のある抗ウイルス薬というのはないという。が、大した病気ではなく、ふつう3~4日もすれば治る。まあ吐き気を抑えるクスリと胃腸を調整するクスリを出しておくから、それを服んで数日安静にしていなさいと言って、処方箋を出してくれた。
安静はいいけれど、食べものがまるで口に入らないのだが・・・と言うと、一週間ぐらい何も食べなくても死にやしない、ただし水はきちんと飲んでおけ、できれば経口補水液を飲むのがよい。ドラッグストアへ行けば、「OS1」とか「アクアソリタ」というのを売っているから・・・とコトもなげにオッシャッタ。
口調からしてどうやら心配な病気ではなさそうだった。
第一「ノロウイルス」なんて、いかにもどん臭そうな名前で、大したことないだろうと高をくくっていたら、とんでもなかった。
当方が高齢で免疫力が弱いせいもあるのだろうが、3日経っても4日経っても少しもよくならない。
常に微熱があって体がだるいし、一日中ムカムカしていて気分が悪いことおびただしい。顔も見たくない嫌な奴らに四六時中とり囲まれてる感じだ。
もちろん何も食べられない。食べ物を目の前にするだけで吐きそうになる。
といって、まったく何も食べないと体力が落ちて治るものも治らないだろうと、比較的食べ易そうな菓子パンのたぐいをムリヤリ口の中に押し込んだら、30分後には上からと下からの両方からぜんぶ外に出てしまった。
医者にも言われたしネットを見ても、何も食べずとも水だけは摂取しろ、さもないと脱水症や、暑い季節だと熱中症になって老人など死に至ることもある・・・と書いてあるので、まあ水だけはがまんして飲んだ。ドラッグストアまで出掛ける気力はないし、認知症の進んだカミさんを独りで外に出して万一帰れなかったら却ってヤッカイなので、経口補水液ではなく蛇口をひねれば出てくる水を飲んだ。
とりわけ不快だったのが、一日中吐き気がやまないことと、ちょっと油断すると下から中味がフライングしようとすることだった。
そもそも何日も何も食べていないから、水状のものしか出ないのだが・・・。
しかしこれはもう不愉快きわまりなかった。
こういう状態では、もちろん何をする気も起らない。じっさい何もできなかった。一日24時間かけてしたことは、かろうじてその日の新聞を読んだだけだ。
こういう日がたっぷり丸一週間つづいた。
一週間が過ぎてようやく吐き気が弱まり、なんとか少しずつ食べられるようになった(食べても戻さなくなった)が、味がほとんどしない。味気ないことこの上ない。だから皿の上の大半は残してしまう。
ほぼ元の味に戻るまで半月以上かかった。実をいうと今でも完全に元通りにはなっていない。
・・・だけではない。
ノロウイルスは名前に似合わぬ素速さで、二日後にはカミさんにも飛び移った。彼女もまったく同じ症状を二日遅れでたどったのである。
教訓・・・「名は体を表さないさない」
見かけによって判断するとコトを誤る。
いい年をして今ごろ気づくなんて、ソートー人間がノロいネ。
当ブログは週1回の更新(金曜)を原則にしております。いつなんどきすってんコロリンと転んで、あの世へ引っ越しすることになるかもわかりませんけど、ま、それまではね。