真夜中のポルノ(下)
元日の読売新聞の第1面に載った児童ポルノ摘発記事。
7200人におよぶ購入者リストが押収され、そのなかに東京地検検事や皇宮警察の巡査部長、医師、教師、僧侶などの名前があったという。
前回は、そのニュースに関してわしのちっちゃな感想をのべたが、今回は、それをきっかけに思い出したわし自身の、(反社会的ではないけれど)ポルノがらみの失敗話をコクハクする。
わしら夫婦が、まだ一つ部屋に寝ていたころのことだから、かなり昔の話である。
ある夜、わしは目がさめて眠れなくなった。隣では女房がすやすやと寝息をたてている。時計をみるとまだ真夜中だ。なんとか眠ろうとしたが、かえって目はさえるばかり。
こうなったらもう眠れない。深夜だが起き出すことにした。
当時寝室はわしの仕事部屋を兼ねていたので、その部屋にはデスクトップパソコンが置いてあった。
わしはそっとベッドから下りると、パソコンの電源スイッチを入れた。
ウィ~ンという換気ファンの音がしはじめたが、女房の眠りをさまたげるほどの音ではない。そもそも当時の彼女は今とちがって、いったん寝入ると朝まで起きなかった。
まずメールをチェックした。が、真夜中なので2,3のスパムをのぞけば新着メールはない。
そこでネットサーフィンを始めた。が、興味のある波に乗れない。
となると、男ならだいたい向かうところは決まっている。わしは健康な男だったし、その頃はまだ若かった。といっても50代半ば。ひょっとするとカンレキに近かったかもしれないから、あまり大きな口は叩けないが・・・。
念のため後ろを振り返ってみると、女房は熟睡していた。叩いても起きそうになかった。
わしは安心してパソコンに向きなおり、最初のうちは静止画像を “観賞” した。それなりにオモシロかった。そのときたまたま空腹だったのである。
改めて言うほどのことでもないが、性欲は食欲と100%同じ構造である。生きものが個として生きるためには食が必要であり、種として生きるには性が必要だ。つまり創造主が生きものにあたえた根幹的本能である
そのことを身をもって実感させられるのは、次のようなニュースに触れるときだ。
前回の記事に書いたように、あるいはジャンバルジャンのように、食が満たされず空腹が極まれば罪をも犯す(場合によっては国と国が戦争をはじめる)のに、満腹のときは簡単にゴミ箱に捨てる。政府広報によると、2016年の日本だけで年間約632万トンが食べ残しゴミとなった。
同じように満腹のときは、ポルノ画像など汚らしくうるさいだけだが、空腹になるとどうしようもなく引き寄せられる。女房の目を盗んでコソコソこの手のサイトを覗きにいく。
ま、情けないといえばけっこう情けない光景なのだが、これは地検検事もコソ泥も、ヤクザも僧侶も同じだ。
ただ、そういう本能系生理現象に対して、どれだけ理性を働かせられるかが各人によってちがう。そこで人間が問われる。
さて、そのときのわしも、せめて静止画像くらいで自制すればよかったのである。ところがつい食い意地が張って、動画にまで手を伸ばしたあたりがわしという人間の限界だろう。
動画だとトーゼン音声が入る。いわゆるウッ○~ン、アッ○~ンというアレだ。
もちろんわしはイヤホンで音を聞いた。パソコンの音声出力端子にイヤホンのプラグを挿しこめば、音は外には出ない。わしはそのとき、まあいい気分で耳からも空腹を満たしていた。
ところがである。思いもかけないことに、ふと背後に気配を感じた。
このときほど驚いたことはない。慌てふためいたこともない。
いつのまにか女房が背後に立っていたのである。
「こんな時間に、あなた、ナニ見てるの?」
女房は言った。そうとでも言う以外になかったのだろう。
こっちにしても、そんなこと訊かれて、どう答えればいいのだ?!
それでもわしはモゴモゴと何か言った。何を言ったかまったく憶えていない。そりゃ当たり前だ、そのときでさえ、自分でも何を言ってるのかよく分かっていなかったのだから。
あとで知ったのだが、そのとき、パソコンのスピーカーからも音が外に出ていたのである。女房はその音で目を覚ましたのだという。女性の “ソノ声” が部屋中に鳴りひびいていたのだという。耳にイヤホンを入れていたわしは、そのことにまったく気づかなかった。
前述したように、大半のパソコンはふつう、出力端子にイヤホンを挿し込めば音は自動的に外に出なくなる。だが中には、設定しだいでイヤホンと同時にスピーカーからも音が出るものもあったのだ。たまたま新調して間のなかったそのときのわしのパソコンは、その手のものだったのである。
それからしばらくは、女房と目を合わせるのは気まずかった。なにせ、ふだんは偉そうにしているカンレキ近い男が、真夜中に起き出してこそこそポルノ動画を鑑賞していたのだ。どこから見てもステキな光景とはいえない。そのうえ女房にみつかって慌てふためいている図なんて、できることなら永遠に封印したい。
しばらくはその後遺症で、女房に強いことが言えなかった。
夜中にあんなもの見ていて、よくそんなエラソーなコト言えるわね、と逆ネジ食わされるのを恐れたのだ。
ようやく普通に戻れたのは、前回でも触れた書家・相田みつをに、次のような書があることを知ってからである。
その書にはこう書かれている。
「奥さん、いいじゃないか、夜はけだもの」