アンレ、まあ

 前回に続いて、もうひとつ新聞の読者欄の投稿から。
  
 投稿者は、愛犬といっしょに散歩をするのが日課の人のようだ。
 連れている犬が日本ではあまり見かけないタイプなので、すれ違う人からよく声を掛けられる。まず犬種を訊ねられる。次に犬の名前を訊かれる。
「アンディっていうの」
「アンリ? シャレた名前ね」
「いやアンリじゃなくて、アンディです」
「あら、アンジなの? かわいい」
 
 こういう会話をする相手はもちろん老人である。つまり老人相手だと、愛犬の名前を正しく受け取ってもらえない。音(おん)の似通った他のことばと聞きまちがえるという。
 あるときなど「アンレ」と聞きまちがえた人もいて、どういう耳をしているのかと疑った。
 ・・・というようなたわいのない話が投稿の内容。
 
 だが、どういう耳をしているのかと疑うまでもないのだ。
 それがまさしく老人の耳なのである。
 年とともに、ある周波数の音が聞こえにくくなる。加齢とともにあっちやこっちの歯が抜け落ちるのと同じだろう。
 
 わしら夫婦も例外ではない。最近とくにこのテの聞き間違いで、しなくてもいい喧嘩をする。先だっても朝起きて顔を合わせたときに、カミさんがぼそっと言った。
「きょうはヒゲるわねえ」
 きょうはヒゲる? ヒゲるって何のことだ?
 ・・・って当ゼン思うワね。

 グーグルで検索することを「ググる」という。その手の簡略化で、無精してわしのヒゲが伸びてることを言ったのかな、と一瞬思った。
 
 それにしてもやはり少し変だ。わしのヒゲは、活きのいいモヤシみたいにひと晩でググっと伸びたりはしない。で、
「ヒゲるって何の話?」
 とストレートに訊いてみた。ところが、
「えッ、ヒゲる? ヒゲるって何のこと?」
 とカミさんはキョトンとしている。
「いま言ったじゃないか。きょうはヒゲるわねえって」
「そんなこと言ってないわよ」
「言ったよ。もう忘れたのか」
 ・・・なんて、しなくてもいいこぜりあいをしたあと、カミさんは「きょうは冷えるわねえ」と言ったことが判明する。
 アホらしくてゴキブリも食わない。
 
 こんなのもある。
「ちょっと出かけてくるわ」
「どこへ?」
「海で買い物してくる」
 ナニ? ふつう海で買い物するか? マグロの刺身が食いたくても、買うのはスーパーか魚屋だろ?
 ・・・と思ったが、また例によって聞き違いだろうと放っておいた。
 後で分かったのだが、行ったのは駅ビルの「ルミネ」だった。
 「ルミネ」を「海」と聞きちがえるなんて、わしの耳は詩人じゃないの?
 
 ・・・って笑ってすませられる場合はいいが、笑えないで後を引く面倒なのもある。
 いつかこういうことがあった。ホームセンターへゴムハンマーを買いに行ったとき、ついでに壁にかけるインテリアの一種を頼まれたことがある。カミさんの好みを考えながら、アレコレ時間をかけて吟味して買ってきた。
 それを目的の壁にかけたとき、カミさんが言った。
「最低ね」
 ムカッとしたよ。たとえ気にくわなくても、もう少し言いようがあるだろうと・・・。で、険悪な空気になった。
 が、なんとなく様子がおかしい。よく確かめてみると、カミさんは「最適ね」と言ったらしい。
 
 それにしても「最適」を「最低」と聞こえるようじゃ最低だ。わしの耳もあんまり先が長くないわナ。
 

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