スズメバチ殲滅作戦

スズメバチ

 テレビ等のニュースによると、つい先日(9月15日)、久留米市の公園にピクニックに行っていた保育園児と保育士が、スズメバチに刺されて全員病院に運ばれたという。
 さいわい症状は軽かったらしいが、スズメバチに刺されると死ぬケースもあるというから、やはり怖い。

 当然、そんな所へ保育園児を連れていくなんて・・・という声も出てくるわけだが、保育園側は、市が管理している公園で猛虫(?)に襲われるなんて思ってもみなかった、驚いている、と、暗に公園の管理のほうを問題にしてほしそうな口ぶりだった。テレビの画面で見るかぎり、確かにきれいに整備された公園だ。

 しかしわしは公園でのハチの襲撃には驚かない。むしろ、北朝鮮のミサイル発射と並んで全国ニュースになったことの方に驚いた。たしかに自分の都合で勝手に飛んでくるところは似てるがね。

 公園のハチの襲撃に驚かなったのには理由がある。実はわしも思いがけない所でズメバチに奇襲されて、一戦を交えた経験があるからだ。全国ニュースどころか地方ニュースにもならず、その夜の食卓の家族ニュースで終わったけど。
 
 もうだいぶ前になる。
 ある日の午後、何かの用で、いつもはあまり使わない戸口から2階のベランダに出た。とたんに鈍い羽音がして、すぐ目の前を黄色いものがよぎった。アレッと思う間もなく、もう一匹が前よりも近くを飛んだ。

 あわてて見回すと、5,6匹の図体の大きな黄色いハチが、辺りを飛び回っていた。スズメバチのことは耳にしたことがあって、こりゃ危ない、こいつに刺されるとコトだぞ! とひやりとした。

 そのとき住んでいたのは田舎ではなく、東京近郊。都心よりは緑は多いが典型的な都市型住宅地だ。野性味たっぷりのこんなハチが、いったいどこから飛んでくるのか、と改めて周辺を見回して仰天した。

 敵の本陣はこともあろうにわが家の軒下だった。
 驚くなかれ、そのときわしが立っていた所から数メートルも離れていない所に、直径25㌢くらいの、うす茶色の丸い巣がぶら下がっていた。いつの間にこんなものが出来たのか、うかつにもまったく気がつかなかった。

 その、大きなバスケボールのような巣の表面には、20匹あまりのスズメバチが群がってうごめいていた。その中から数匹が飛び立ったり戻ったりしていて、まるで戦闘機の緊急スクランブルを見るようだった。
 
 今なら市役所か業者に電話をして措置を頼むのだろうが、そのときにはそういう発想はなかった。こっちもまだ若かったし、自分で対処するつもりだった。
 いったん家の中にもどり、軒先に勝手に大きな巣を作った図々しい獰猛バチと、どう戦うか、どう追い払うかを考えた。

 あんな大きな巣なのだから、外に出て警戒に当たっていたのは20匹ほどだけど、巣の中には数百匹のハチがいてもおかしくない。そんなのを相手に、専門知識も技術もないシロートがひとりで戦いを挑もうとしたのだから、いま考えると無鉄砲もはなはだしい。思い出すだけでゾッとする。なんでもそうだけど、無知というのは恐ろしい。

 だがいくら無知とはいえ、素手でスズメバチと戦えるとは思わなかった。何か武器が必要だ。何かないかと考えた。思いついたのはハエ叩きと座敷箒くらいだ。しかし、そんなものをいくら力任せに振り回したところで、数百匹のハチと互角に戦えないことは、もちろんシロートにも想像がついた。何しろ多勢に無勢。しかも相手は羽と針を持っている。そしてその針には毒がある。

 そのときひらめいた。そうだッ、ゴキブリ駆除剤だ。スプレー缶入りのが家にある。これだッ! とわし直感した。コキぶりは図々しさではスズメバチに負けていない。そのゴキブリに有効なんだから・・・と。(なんと高級な発想力!)
 
 いちおう防御対策はした。フードのあるレインコートを被り、フードの紐を強く絞って、顔の露出部分をできるだけ小さくした。風邪用のマスクをし、スキー用ゴーグルをかけた。両手には厚手の園芸用ゴム手袋をはめた。顔のほんの一部以外に肌が露出したところはなくなった。
 
 わしは意を決してベランダへ出た。数は減ったが10匹ほどがなお巣の表面にうごめいている。
 1メートル辺りまでそろりそろりと近づいた。そしていきなり巣に向けて噴射した。
 巣の表面にいたハチは一斉に飛び立った。まさにスクランブル発進。こっちへ向かって飛んでくる。わしはそいつらに、真正面から薬剤を噴射した。
 さすが “ゴキブリ駆除液” だった。もろに薬液を浴びたハチたちは、たちまち下へ落ちていった。次から次へと。気持ちいいくらいだった。
 
 異変を感じたのだろう。あるいは伝令が走ったのかもしれない。すぐさま巣の中から次々と新たなハチが飛び出してきた。そしてこっちへ向かってきた。わしも夢中で・・・というか恐怖に駆られて必死に薬剤を噴射し続けた。気持ちとしては最新式機関銃を乱射している感じ。中にはそれをもかいくぐってわしの衣服の上から刺したものもいたかしれないが、針が皮ふまで届かなかったようで、被害はなかった。
 
 この戦い、どのくらい続いただろう。かなり長かったように思う。次々に巣から出てくるハチがいつまでも後を絶たないので、途中、薬液が足りなくなったらどうしようと思った。こっちの弾が尽きてもまだ敵兵が残っていたら・・・と思うと恐怖心が背中を走った。さいわい、駆除剤は買ったばかりで薬液はたっぷりあり、助かった。

 やがて、巣からハチが出てこなくなった。2,30分ほど様子を見たが、全滅したのか、その後は一匹も姿を現さない。巣も外観はそのままだが、シンとしていかにも陥落した城のようだ。念のため巣の出入り口にノズルを近づけて、巣の中へ目いっぱい駆虫剤を噴き込んだ。
 
 その日はそのまま引き上げて、2,3日様子を見た。その間、敵城に出入りするハチは一匹もいなかった。やはり全滅したようだった。念のためふたたび完全武装してベランダに出て、脚立に上ってハチの巣を軒先から取り外した。残兵の反撃はなかった。
 ゴキブリ駆除剤、恐るべし。

 わしはその巣を戦利品として置き物にしたいと思ったが、女房が反対したので諦めた。ビニール袋に入れて燃えるゴミに出した。

 以上が、わしの経験したスズメバチ殲滅作戦の一部始終である。

(補記:たまたまわしは被害はなかったが、今から思うと単にラッキーだっただけだ。真似をして被害を被っても責任は持たないよ。やはり駆除は専門の業者ん頼んだほうがいい。)

ポチッとしてもらえると、張り合いが出て、老骨にムチ打てるよ

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