人間はときおり訳のわからない振る舞いをする。
　次に述べるのは、先日、近くのスーパーの出入り口で見た光景である。
　
　スーパーなどという生活臭フンプンたる処へは足を踏み入れない、という高貴なお方はご存じないだろうが、コロナの来日以来、どのスーパーでも、出入り口にアルコールなどの消毒液を置いている。

　出入りする際に容器の頭を片手で押すと、ノズルから消毒液が出てくる。それを両手にこすり合わせて消毒する。

　で、先日のことである。スーパーの入り口で容器の頭を押しても、消毒液が出てこない。容器のなかを確かめたら空になっていた。

　店員に知らせて補充してもらう手もあったが、面倒なのでカミさんはそのまま店内に入り、わしは近くにあったパイプ椅子にすわって、彼女が買い物を済ませるのを待っていた。

　余談だが、わしはカミさんの買い物に同道するが、食材を買うのに口出しはしない。調理に使う材料は調理をする人が選ぶのが合理的だ、という高等理論に基づいている。
　で、わしは入り口付近で待っていて、頃合いを見計らって店内に入る。レジを終えた彼女を迎え、買ったモノをカゴからリュックに移し、わしが背負って帰る。これがわが家の買い物ロードマップである。ステップ１とか２とかいった細かいことは言わない。

　さて、本題に戻るが、入り口で待っている間にわしは変なことに気づいた。
　スーパーにやってくる買いもの客のほぼ８,９割は、リチギに消毒容器の頭を押していく。

　その消毒実施率の高さ、つまり意識の高さに感心した。やっぱり日本人はえらい、すごいと。
　が、すぐそのあとで別のことも思った。
　意識が高いの低いのというより、単にコロナが怖いだけじゃないの、

と。
　あるいは “自粛警察” みたいなのに密告されるのが怖いのかも。
「今、ハゲ・ヒゲのじいさんが消毒しないでヨタヨタ入ってったよ！」なんてチクられて、「ちょっと、そこのハゲ・ヒゲのじいさん」なんて警備員に呼び止められるのは、わしだってイヤだ。
　
　まあそれはそれとして、今回わしが書こうとしているのは別の話。
　最初は信じられなかったが、消毒する人のほぼ３分の１くらいの人が、容器の頭を押したあと、手をこすり合わせるのである。

　

　おかしいではないか。容器の中は空っぽなのだ。

　ついさっきわしが確かめてから、容器の補充もしくは交換はされていない。

「あんたがボケてて、気がつかなかっただけじゃないの？」って言う人もいるかもしれないが、それは違う。
　その証拠に、あとの３分の２の人間は、液が出ないのに気づいて中を確かめ、軽く舌打ちしたり、近くに店員がいないかキョロキョロしたりしているのだ。
　
　容器の中が空なのは間違いない。
　
　にもかかわらず、３分の１くらいは、容器の頭を押したあとコチョコチョと両手をこすりわせる。知らない人が見たら、容器の中が空っぽだとは思わないだろう。
　エアギターというのはテレビで見たことはあるが、エアショードクってのは初めて見た。
　
　考えられることが一つある。
　この人たちは、スーパーの出入り口での消毒にあまり関心がないのではないか、ということだ。
「こんなモンでコロナに対抗できるか？」という懐疑派から、「自分は絶対にコロナにはかからない」という無根拠自信派、さらには、「何をみんなガタガタ言ってんの。オレの周辺でコロナにかかったヤツはひとりもいないよ。騒ぎすぎ！」という無思想お気楽派まで。

 

　ただそういう人たちも、ナントカ警察にナニか言われると面倒だから、形だけやってとけばいいやと思っているのだ。
　だから消毒液が実際にノズルから出ても出なくてもいいの。ショードクしてるフリをしておけばいいの。
　
　そこまで考えて、アレ？ コレ何かに似てるな、と思った。
　
　すぐ分かった。どっかの国の政治だ。
　トップの首相がテレビに出て何か重要な問題についてしゃべっても、まるで心にひびいてこない。言うこともやることも形だけだからだ。他人（官僚）が書いた文章をただ読んでるだけだから。
　
　わしら庶民の言動が形だけで “魂” が入ってなくても、べつに誰に迷惑をかけるわけではなく、ただバカにされるだけだけど、一国の舵をにぎっている高貴な人が口先人間ではこまる。国民が政治を信用しなくなる。
　
　これってちょっと怖いんじゃないの

 

ポチッとしてもらえると、張り合いが出て、老骨にムチ打てるよ