道は座るとこじゃない

ヨーロッパの田舎町

 若いとき、行き先も目的も持たず、ついでに十分な金も持たず、足の向くまま気の向くまま、ヨーロッパ巡りの旅をしたことがある。

 こういう気ままな旅は、一見気楽そうに見えるけど、実際にやってみると分かるが、けっこう疲れる。スケジュールに縛られた旅のほうが、はるかに楽だ。
 何もかもすべて自由だというのは、何もかもすべて自分で決めねばならないということで、かえって不自由・・・ってのといっしょね。
 
 さて、そのときはドイツの地方をほっつき歩いていた。
 日本を出て1ヵ月半ほど過ぎたころだったので、心身ともにだいぶ疲れがたまっていた。
 何という所だったか、名前もすっかり忘れてしまったけど、いかにもヨーロッパらしい古い小さな田舎町だった。
 
 まだ昼前なのに突然のように疲労感が襲ってきた。まるで音も形もないカミナリに一撃されたよう。溜まっていた疲れがこの時点で満杯になり、コップの縁からこぼれ出してきた・・・って感じ。
 
 小さな食べもの屋にでも入って、昼食がてらに一休みしたいと思ったが、あいにくそれらしい店屋はない。
 そうしているうちに、一歩まえへ進むにも、足に米俵でも引きずっているみたいに重く感じられるようになった。
 
 あたりに腰を下ろせるベンチもない。
 無様だと思ったけど、立っていられなくなって、小さな石橋の欄干にもたれかかってずるずる地面に腰をおろしてしまった。
 そして何も考えずにぼーっとしていた。
 
 どのくらいそうしていたのだろう。
 ふと気づくと、道を歩いてきた誰かがわしに目をとめて、まっすぐに近づいてきた。60代半ばくらいのおばはんだった。
 
 目の前までくると、やや腰をかがめ、しっかりとわしの目を見据えながら、ベラベラと何か言った。もちろんドイツ語だ。わしの知っているドイツ語は「ダンケ・シェーン」と「イッヒ・リーベ・ディッヒ」くらい。
 
 わしの反応を見てドイツ語を解しないと知ると、すぐドイツ語なまりの強い英語に替えて言った。何て言ったかというと、
「こんなところに座っちゃいけない。ここは座るところじゃない、歩くところだ。すぐに立ちなさない」
 
 いわゆるヒッピー全盛期は過ぎていたが、当時、バックパッカーはまだ世界中いたるところいた。日本だったら、道にへたりこんでいる外国人がいたからといって、いちいち真正面から注意する者はいないだろう。どんなにヒマな人でも見て見ぬふりするにちがいない。
 
 こういうストレートな忠告にあまり慣れていなかったわしは、多少は鼻白んだけど、相手の言っていることは間違っていないので、すぐにすなおに立ち上がった(こういうところも日本人的だネ)。
 
 いま振り返ってみると、こうしたちょっとしたコトの中にこそ、それぞれの国民性は表れるのだと思う。
 
 4月27日に書いた記事のなかで、
「公の場でマナー違反をする人間には、ほんとうは直接声をかけて注意するほうがいいのかもしれない。だが日本人にそれを求めてもダメだ。国民性になじまない」と書いた。
 それでこの小さな体験を思い出した。
 
(4月27日の記事『見たぞ、見たぞ』はこちら
 

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道は座るとこじゃない” に対して1件のコメントがあります。

  1. 江草乗 より:

    ブログ村の新着記事から参りました。

    面白い記事が多いので、いくつか拝見しました。
    私もそろそろ老人の仲間入りなので
    人生の先輩として、いろいろと学ばせてもらうつもりで
    記事を過去に遡って読んでいきます。

    また興味を引かれたらコメントします。

    私も若い頃にドイツを放浪しました。
    同じ体験をなつかしく思った次第です。

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