歯医者に行く密かな楽しみ(Part 1)
先日、悪友たち4,5人と久しぶりに酒を飲んだ。そのときたまたま歯医者の話になった。
彼らはみんな、歯医者の助けがなければ満足に食事もできない連中ばかりだ。歯の話のタネにはこと欠かない。
しかしだいたいはネガティブな話だ。痛い、高い、待たされる、ドリルの音が怖い、診療時間がこま切れ → 何度も通わされる → 時間と金がかかる、時間はあり余ってるけど・・・等々。
そのうち1人が言い出した。
「でもさ、歯医者もイヤなことばっかりじゃないだろ。いいこともあるだろ?」
最初はみんな、何が言いたいんだこいつ、といった顔をしたが、1人が急にニヤニヤし始めて、
「わかった。お前、あのことを言いたいんだろ?」
「あのことって?」昔から血のめぐりのあまりよくないのが訊く。
「看護婦・・・あ、今は看護師っていうんだったっけ」
「歯科衛生士。いまはそう言うの」
「どっちでもいいって、そんなことは。そんでさ・・・アレ、ナニ言おうとしてたんだっけ。エット・・・あ、そうか、その歯医者ンとこの女さァ、たいていみんな若いだろ。ンでまあ、顔やスタイルだって並以上なのが多いよね」
ここまできて(1人を除いて)ようやくみんな納得顔になった。
「わかったよ。おまえの言いたいこと。つまりさ、歯科医院ではさ、若い女がちゃんと挨拶してくれる。機嫌がよけりゃニッコリ笑ってくれる・・・そう言いたいんだろ。ほかじゃまあムリだもんな」
「ムリムリ。電車の中なんかでうっかり若い女と目を合わせようもんなら、『ナニよ、この助平じじィ!』って目で睨まれるもんなあ」
「でもさあ・・・」と血流の遅いのが、またクソまじめな顔で言った。「笑って挨拶してくれるだけなら、歯医者でなくても、ちょっと高級な店へ行って買い物すりゃ、若いきれいな女店員がニッコリ笑ってくれるよ」
「おまえ、相変わらずにぶいな。昔とぜんぜん変っとらん。ヤッコさんが言いたいのは、挨拶ウンヌンじゃないの。その先にあること」
「え、その先って?」
「だからさ、歯医者ンとこでは、若い歯科衛生士が、椅子のうえに横たわってるおまえのそばにきて、そのやわらかいお手々でおまえの唇にやさしく触ってくれるだろ?」
「若鮎のような指で・・・ってか」別のヤツが茶化す。
「そいでおまえは何げないふうに目をつむって、全神経を集中して、自分の唇に触れてる女の指の感触を楽しんでるだろって話。・・・身に覚えがあっだろ」
「ある、ある」隣のヤツが我が意をえたように、「うっすらと目を開けたら、わが口の中を覗きこんでる若い女の顔がすぐ目の前にあって、ドキッとしたりして・・・」
「彼女ら、ほとんどマスクをしてるのが残念だけどね」
「マスクしてなかったら、おまえ、ナニする気だ?」
「でもさ。あんまり楽しめないタッチをされるときもあるよ」
いままで黙っていた別の男が言った。
「歯型を取るとかいってさ、ゴム粘土みたいなのをくっ付けた金具を、むりやり口の中へ押し込まれるとか」
「そうそう。ほっそりとした可愛い顔の女の子なのに、まるで金庫のふたをこじ開けてる銀行強盗みたいに、強引に口開けて押し込むのもいるよ。一度びっくりしたことがあったなあ」
「Mっ気のある〇〇なんか、それがまたよかったりして・・・」(笑)
やれやれ、何と情けない会話をしていることだろう。
これで現役時代はみんな、それぞれ有名企業を定年まで勤めあげてきた男たちなのだから・・・。
人間なんて、万物の霊長などと言って偉そうにしとるけど、まあ大した生きものじゃないわな。
(次回は、わしの個人的な歯科医へ行く楽しみを書く)