ついに、来たぞ
先日、知らない人間から電話がかかってきた。
若い男の声である。
いきなりわしの名前を口にし、「ご本人に間違いありませんか?」と問う。
そうだと答えると、さらに、「念のため確認させて頂きたいのですが、あなたの生年月日をお伺いできますか?」と言った。
そのときにはもう、これはヘンな電話だぞ、という気はしていた。
しかしすでに相手はこっちの名前も、電話番号も知っているのだから、へんな細工をすると却ってコトを混乱させると思い、すなおに生まれた年月日を言った。
すると相手は一瞬間をおいてから、こちらには喋らせないで一方的に自分の言いたいことをズラズラと述べた。
要約するとだいたい次のようなことである。
ある会社が、当行(電話を掛けてきている銀行)の貴方(わし)の口座に、誤ってまちがった振込みをした。振込み元銀行がその金を取り返す作業(所定の手続き)を行いたいたいと言っているのだが、返金作業にご協力願えますか・・・というのであった。
ついに、来たか!! とわしは思った。
まずピンときたのはそれである。
世間の話題になってすでにだいぶ経つのに、未だに世にうとい老人をカモにした詐欺がヒンピンと起きている。息子や孫を装ってニセの電話をかけてくる例の特殊詐欺というヤツだが、近ごろは手口がソートー複雑かつ高級になっていると聞く。そのせいか被害額もなかなか減らない。
そいつらが狙うトロイ老人として、わしも十分な資格がある。騙して、しこたま金を取り上げてやろうと思われても、おかしくない年回りだ。
ただ相手がしているヘマは、しこたま取り上げる金など、悪いがわしのフトコロにはないことだ。
わしは思い出した。
何か月前に、山口県のどっかの田舎町で、町民のコロナ対策給付金を職員がまちがえてあらぬ個人の口座に振り込んでしまったことがあったことを・・・。振り込んだ金が大金(確か4千万円余り)だったこともあって、日本中が大騒ぎした。
あの事件がまだ人々の頭から消えないあいだに、それを利用した新手の詐欺を考え出したのにちがいない。
ともあれここは、落ち着いて対応すべきだと思った。
しっかりした応答をして、当方の頭が相手の狙いどおり老化して与しやすいと思われないようにしなければ・・・と。
そこで、ストレートには相手の問いには答えなかった。まちがった振込みをしたのはいつなのか、振り込んだ金額はどれくらいなのか、とか、さらには、もし返金作業に協力しなかったらどうなるのか・・・などとということを訊いて電話を長引かせた。
すると相手は、そういう事情を詳しく書いた書面を当行から郵送するので、それをよく読んで対応頂きたいと言って電話を切った。
実際すぐ(2日後)に封書が届いた。そこには、
「(前略)〇月〇日にお客さまの口座に誤った振込みがありましたが、振込元金融機関を通じて、振込依頼人様から振込金の返金依頼がありました。つきましては、返金についてご承諾いただける場合は、同封の『振込金組戻承諾書』に、日付、ご住所およびお名前をご記入いただき、認印を押したうえ、○○までに返信用封筒でご返送くださいますようお願い申し上げます」
読んで思った。これは真っ当な文書だな、と・・・。変なところがない。つまり、金を騙し取るうえに必要な情報等を記入する欄がない。
また思った。このあいだの電話が特殊詐欺だったのなら、テキはその時にその場で勝負するはずだ。証拠を残すような書類をわざわざあとから送りつけてきたりはしない。
これはダマシ事件ではなさそうだ、と思った。
そこでハタと思い当たった。これがダマシかダマシでないかを確かめる簡単な方法があるではないか、と。
わしの口座に間違った振込みが行なわれたのなら、それが実際に行われているかどうかチェックしてみればいいのだ・・・と。
そもそもそんな単純なことを今まで考えつかなかったのがおかしい。それこそ頭がトロくなっている証拠で、そういう奴がサギに引っかかるのだ・・・とニガ笑いしながら確かめてみると、まさしくわが口座に当方の覚えのない振込みが行われていた。
一件落着。めでたくダマシ事件ではないことが判明した。
・・・という、毒にも薬にもならないバカバカしい “事件” がさいきん実際わしの身に起きたので、報告してみた。
それにしても、AIとかVRとか最先端じみたことが生活に身近になっているというのに、こういうアナログ的なダサい出来事が未だにちょくちょく起きるのだねぇ。
何となくホッとするねぇ
当ブログは週1回の更新(金曜)を原則にしております。いつなんどきすってんコロリンと転んで、あの世へ引っ越しすることになるかもわかりませんけど、ま、それまではね。