長兄(1)-うつを病んだナメクジ-

なめくじ

 ぶっちゃけた話・・・なんて若者言葉を年寄りが使うのは、短足が背伸びしてるみたいでカッコ悪いんだけどね。で、言い直す、打ち明けると、わしはブログのネタに詰まると、古川柳の本を開くことがある。そして何かどこかにひっ掛かってくるものを探す。
 
 今回は、
 
  食いつぶすやつに限って歯を磨き
  
 という古川柳が引っ掛かってきた。
 
 ところで、「惣領の甚六」っていう言葉、知っる?
 現在では完全に死語になってるから、若いひとは知らないだろうなァ。
 だがわしの子供の頃は、ごくたまだけど、耳にすることがまだあったネ。
「ひのや(家の屋号)ンとこのよしはる(ひとの名前)、さっぱり役に立たねぇな。惣領の甚六だからねぇやつは・・・ま、しょうがねぇか」なんて。

 辞書にはまだ一応見出しが残ってる。
「最初に生まれた子は大事に育てられるので、弟や妹たちよりもおっとりしていたり、世間知らずであったりすること」(大辞泉)。
 とある。「惣領」というのは、いちばん初めに生まれた子、つまり長男または長女のことをいうんだ。

「おっとり」や「世間知らず」ていどならいいんだけどね。「大事に育てられ」過ぎて、かなり「問題のある人間」に育っちまうこともちょくちょくある。実はわしの長兄が、そのちょくちょくの典型だった。
 今回はその長兄の話をちょっと書いてみる。

 わしの祖父母は、夫婦仲は良かったんだが、子供が生まれなかった。自分たちがガンバルだけでなく、漢方や民間療法などにも助けをもとめて一所懸命だったらしいけど、ダメだった。
 で、自分たちの子を諦めた彼らは、家を絶やさないためにも親戚筋の娘を養女にし、婿をとった。そして生まれたのが長兄善晴(仮名)だったのである。いわば、長く水を飲めずにカラカラに乾いていたのどに流しこまれた、真新しい一滴の水みたいなものだった。

 ・・・というわけで、長兄は生まれた瞬間から、祖父母をはじめ家族の愛情(真の愛情とはいえんと思うけど)を一身に集めて育った。
「蝶よ花よ」という言葉があるよね。ふつうは女の子に使うけど、長兄はまさに女の子をなめるように「蝶よ花よ善晴よ!」って感じで育てられたらしい。残っている写真をみると、実際幼児のころの彼は女の子のように可愛い。
 
 彼はわしより九歳年上だった。わしが物ごとの判断ができる十歳くらいになった頃、長兄は20歳前後、成人である。

 にもかかわらず、何もせず家でぶらぶらしていた。高卒後、大学や専門学校へ進むわけでもなく、かといって就職するでもなく、一日のほとんどを家にいて、ラジオの前で寝転んですごした。

 放送を聴いているのかと思うと寝ていた。若い身空で。
 わしは子供ながらも、そういう長兄を軽蔑していた、腹の底から・・・。それがときどき腹の中から飛び出してきた。
「兄ちゃんは、いつになったら働きに出るの? 兄ちゃんの体の下のタタミ、擦り切れてるよ!」
 十歳近くも年下の弟にそういう嫌味を言われても、長兄は怒って手を上げるでもなく、口で反論するでもなかった。気まずそうな顔で煙草に手を伸ばすだけだった。

 彼はそういう “うつを病んだナメクジ” のような男だった。
 ところががひとつだけ、別人のように熱心にやることがあった。手の爪の手入れである。
 日当たりのいい縁側などにすわって、時間をかけて丁寧に爪を切り、どこから手に入れたか専用のやすりで念入りに爪を磨くのだ。そのときの彼の姿や目付きは・・・というか体全体が醸し出しているオーラは、さながら高名な陶芸家が素焼きの茶碗に絵付けをしているようだった。
 
 若い女ならともかく、(若いけれど)男の彼が、しかもほとんど家から外へ出ない男が、いったい何のために爪研ぎなんかに熱中したのか、当時はもちろん今でもわしには理解できない。心理的な推察は多少できるがね。
 
 この長兄を頭において、上記の古川柳「食いつぶすやつに限って歯を磨き」をもじればこうなる。

  能のない鷹にかぎって爪磨き

 まあわがハラカラながら、なんとも情けない人間ではある。
 だが、そういう人間になったのは彼のせいではないとわしは思う。彼は完全に被害者であった、当時家の権力者であった祖父母の・・・。
 
 父や母は、このような長兄の将来を思って心を痛めていたにちがいない。わしも子供ながらに、この兄はいったいどういう人生を送るのだろうと思わずにおれなかった。
 
 ところが彼の人生は、わしが想像したものとは違った。
 彼は10年あまり前に80歳近くで永眠したのだが、棺のフタを覆ってみると、彼の人生は他の4人の弟妹にくらべて見劣りするようには思えない。たしかに物質的豊かさでいえば次兄の何分の一だったかもしれないが、人間としての幸せ度からいえば、それほど遜色はなかったように思える。
 
 そんな彼のその後の人生はどんなものだったか、次回に書いてみる。

        お知らせ
当ブログは週2回の更新(月曜と金曜)を原則にしております。いつなんどきすってんコロリンと転んで、あの世へ引っ越しすることになるかもわかりませんけど、ま、それまではね。その上今年は月の中盤からインフルエンザにとっ捕まって、七転八倒した。記事アップが夕方になったのはそのせい。乞うお許しを!!
 
 

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