夏の輝き

カキ氷

 子供のころ、お盆(旧暦)が過ぎると世の中が少し暗くなった。
 夏至からすでに2ヵ月近くが過ぎて、太陽が地球から遠のいたからではあるけれど、小学生にはそれ以上に大きな理由があった。
 夏休みがあと10日ほどで終わって、また学校へ行く日が近づいたからである。
 しかも、夏休みの宿題がほとんど手付かずのまま残っている。毎年この時期になると、わしは頭に黒い袋をかぶせられたような気になった。そして、紙袋をかぶせられた猫のようにジタバタした。

 ま、毎日が “大型連休” の現在のわしとっては、そんなコトはもはや何の関係もない。
 
 ・・・と言いいながら、その舌の根も乾かぬうちにナンだが、いやそうじゃないぞ、ちょいと飛び跳ねたら骨が折れる体になったからこそ、小学生のころの夏休みが天国のような輝きを放つのではないか・・・と。

 そうだ。改めて言うのもなんだが、わしにも輝きに満ちた少年時代があった。
 首筋に突き刺さるように落ちてくる太陽の光。目に痛いほど青い青空。それを背に白い巨人が立ち上がったような入道雲。耳を覆うセミの声、あまりに間断なく圧倒的な音量なので、時にふいと無音の世界に入ったかのように感じる・・・。
 
 そんな夏の野っぱらや川や山の中を、短パンに上半身裸で一日じゅう走りまわり飛び跳ねていた。足や手を傷だらけにして・・・。
 そして喉をカラカラにして家に帰ってくると、井戸水で冷やされたトマトやスイカにかぶりついた。
 
 そのように、白熱した時間に埋めつくされていた夏休みであったが、そんな中でも、満天の星空にもとりわけ強く光る星があるように、記憶に強く残っている特別の場面がある。

 今回はその一つ。
 まだ学校へあがる前だったと思う。小学校3,4年生くらいの姉が町へお使いに行くのに、ついていったことがある。その帰りだった。姉がいつもは見せない真剣な顔をして言った。
「ねえ、秘密守れる?」
 そう問われて、「守れない」と答える子供はいない。
「ほんと? ほんとに絶対に守れる?」
 もう一回うなずく。
「いいわ。じゃ、これから、カキ氷食べに連れてってあげる」

 当時、わが家では子供にカキ氷は厳禁だった。お腹をこわすから、という単純な理由からだったらしいが、禁じられるとよけい欲しくなるのは人間の常だ。子供だって同じ。一度でいいから食べてみたい、といつも思っていた。

 姉がどのようにして2人分の氷代を用意したのか知らない。
 ひょとすると、お使いのお釣りをごまかしたのかもしれない。「カキ氷はダメ!」という親の言いつけに背くうえに、お使いの釣り銭をごまかすという “悪事” を重ねるからこそ、姉は「絶対秘密」をくどいほど念を押したのではないか。そしてそれが秘密であればあるほど、子供の心は熱を発する。

 ともあれ炎天の下を歩いたあと、青い波のうえに「氷」という大きな赤い字の入った旗がはためく店の中へ入ったときは、まさに天国への扉をくぐるように胸がときめいた。

 
 わしら姉弟のこの小さな “悪事” は、じつは結局は母に露見するところとなって、こっぴどく叱られた。そのとき姉は言ったものだ。
「○○(わしの名)にいっぺんでいいから食べさせてやりたかったの」

 それを聞いてわしは幼な心にも、「あ、ひとのせいにしている!」と思わないでもなかったけれど、あまり腹は立たなかった。
 それほど、真夏のカキ氷の味と親に秘密をもつスリルは、甘美だったのである。

 それから75年以上が経っているが、夏が来てあの「氷」の旗が軒先にはためくのを目にすると、今でも遠くで胸がときめく気がする。

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