トンネル内ガチンコ勝負

 わしらは週に1回だけ、食料の買いだしに遠出する。

 そのスーパーは少々遠いのだが、品揃えが豊富で、安い。
 で、老化対策の運動を兼ねて出かける。毎日だとキツいので週に1回。
 
 道中にトンネルがある。
 かなり長いトンネルだ。入り口を入ってもしばらくは出口が見えない。だいぶ行ってからようやく遠くに見える。テニスボールくらい。入ったら出るまで5,6分はかかると思う。
 
 トンネルの壁ぎわに、1メートル半ほどの歩道が付いている。車道との境に腰高の手すりも付いている。だが危険防止としては影がうすい。なにしろ車道を走るクルマの騒音と地響きがすごいのだ。照明がうす暗いので目には見えないが、土ぼこりだって相当舞い上がっているだろう。

 乗用車はまだいい。問題はダンプカーやタンクローリー車など大型車だ。そういうドデカい車がすぐ傍を爆走すると、エンジン音と地響きがトンネル内に反響して、気のふれた巨大恐竜が隣を狂奔しているように思える。爺さん婆さんにはあんまり楽しい場所ではない。
 
 先日、そのトンネルの中を歩いていた。
 その日はたまたま恐竜類の通行が多くて、半ばを過ぎた辺りでいい加減うんざりしてきた。出口までまだだいぶある。
 そこで一計を案じた。
 
 4,50メートルほど先を、ひとりの男が歩いていた。
 明るい出口を背景に浮かびがっているのは小さなシルエットだが、どうやら5,60代くらいの男らしい。
 よし、トンネルを出るまでにあの男を追い越そう、と決めた。
 ま、目先に目標を掲げたわけだ。
 
 人間は目標を持つと気持ちがそこへ向く。他のことが比較的気にならなくなる。
 そう考えて、前をいく中年男の背中に意識を向けたわけだ。
 
 ところが、ペースを上げたつもりなのに、なかなか男の背が近づかない。
 そこでさらにペースアップ。
 しかし、男の後ろ姿はやはりほとんど大きくならない。
 
 心外だった。
 自慢じゃないが、わしは45年あまりジョギングやウォーキングを続けている。80を越したとはいえ、脚力には自信がある。だがそれゆえにこそ、前の男との差が縮まらないことに納得がいかなかった。
 
 で、わしは、いい年をして(今の若者風にいえば)ガチになった。
 わが45年のウォーキング歴のメイヨのためにも、何がなんでもあの男を追い越さねばならぬ・・・と意地になった。走るのではなく男と同じ歩きで・・・。
 
 わしは本腰をいれてさらに速歩のペースを上げた。
 さすがに少しずつ後ろ姿は大きくなった。が、まだ距離はある。
 一方、トンネルの出口もだんだん近づいてくる。トンネルを出るまでに追い越せるか。むずかしいのではないか。
 
 もはや恐竜の騒音や地響きはどこかに消えた。
 ひたすら前を歩く男の背を追った。
 男までの距離は縮まった。
 が、同時にトンネルの出口も近づいている。
 はたしてトンネルを出るまでにあの男を追い抜けるか。
 
 ほとんど出口ぎりぎりのところで男を追い越した。
 ホッとしたが膝がガクガクした。
 ちなみに男は4,50代の職人風の男だった。
 
 それから2,3日は足腰の調子がおかしかった。
 ・・・ったく、いい年をして、何をやってんだか。
 

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当ブログは週2回の更新(月曜と金曜)を原則にしております。いつなんどきすってんコロリンと転んで、あの世へ引っ越しすることになるかもわかりませんけど、ま、それまではね。

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