年寄りの遠吼え

 わしはいま、いちおう健康である。
 現在世界で流行している新型コロナウイルスにも取り付かれていない。放っておいてもどうせ間もなくクタバルのだから、わざわざ出かけてやるまでもないと思っているのだろう。
 
 ただ体に痛みを感じるところはある。
 右腕である。
 理由は分かっている。
 細菌やウイルスではなく、引っ越しである。
 
 わしら夫婦は去年の9月、事情があって引っ越しをした。
 その頃の当ブログに何回も書いているが、年寄りになってからの引っ越しは想像以上に大変だった。ふだんなら高齢を理由にやらずにすむことを、やらなくちゃならないからだ。
 
 その最大のものは重いものを持つこと。
 持ち上げたり移動させたりしなけりゃならない。わしのような老いぼれにはこのデカいのはちょっと・・・などと言うことを許されない。
 
 で、アレやコレやの重量物と、ひっしにタイマンで闘った。それも1ヵ月半もの長期間だ。最後の1週間は激戦だった。『老人と海』の老漁師を思い出した。

 こんなコトをやってたら後でどうにかなるぞ、とウスウス感じてはいたが、必要に迫られて目をつむってやる以外になかった。
 
 このウスウスが現実にリベンジに現われたのは、引っ越しが終わって1週間ほど経ってからである。中で突っぱってたものが緩んだせいだろう。
 まず右腕が痛くて上がらなくなった。
 よりにもよって右か・・・と、右利きなわしがボヤイていると、腕のみならず腰や太股も痛くなった。夜半に痛みで目が覚めるほど。
 
 さいわい腰と太股の痛みは2週間くらいで引いたが、腕の痛みだけはなかなか引かない。引っ越しから5か月が過ぎるというのに、いまだにしぶとく頑張ってござる。
 
 で、これまで右腕がしていたことを、やむをえず左腕がやることになった。
 たとえば玄関の出入り。
 扉についているシリンダー錠へ、鍵を挿し込んで廻す動作が右手ではできない。で、左手でやる。
 こんな単純な動作でも、慣れないとなかなかスムーズにできない。過労でとつぜん同僚が倒れたので、他の職員がふだんやり慣れない仕事をやらされるみたいなものだ。
 
 その貧乏くじを引いた同僚は、訓練されていない筋肉をとつぜん使うことになるので、負担が大きい。こっちも体調に影響が出る。
 
 問題は、後をひきついだ同僚も同じ老人であることだろう。若ければ新しい仕事に慣れるのも早いが、老人だとそうはいかない。
 
 結局、問題は一に “老人であること” にある、ということになる。
 そして人間は、老人になることを避けられない。
 この世に生まれた者はひとり残らず老人になる。
 居直る以外にない。
 
 OK、とことん味わってやろうじゃないの、老人を。
 腕だろうが足だろうが頭だろうが、痛むなりボケるなりして見せろ。
 ちゃんと受けてやろうじゃないの。
 
 「や~い、老人よ。出て来いやァ~!」
 
 ・・・って、あんた、なにひとりで吼えてるの?
 負け犬の遠吠えってのは聞くが、年寄りの遠吼えっての、あまり聞かんぞ。
 

        お知らせ
当ブログは週2回の更新(月曜と金曜)を原則にしております。いつなんどきすってんコロリンと転んで、あの世へ引っ越しすることになるかもわかりませんけど、ま、それまではね。

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