メカ音痴 スマホ山へ登る(上)

スマホ山登山

 人間には誰しも好き嫌いがあり、得意不得意がある。
 ちなみにわしが好きなのは陰徳を積むことであり、得意なのは稼いだ大金を隠匿することである。
 ・・・というのはもちろん冗談である。実際に好きなのは平々凡々にコーヒーと甘いモノで、得意なのはド忘れと放屁。
 
 ついでに言うと・・・いや実はこっちが本筋なのだが、カミさんが好きなのは花とバロック音楽で、嫌いで不得手なのは機械類(メカニズム)である。
 じっさい機械オンチという言葉に、彼女ほどふさわしい人間をわしは知らない。
 
 例えば懐中電灯に電池を入れられない。
 そもそも懐中電灯って機械と呼べるの?

 世の中がデジタル時代になって、パソコンで何かを調べるのは日常茶飯事だが、カミさんは未だにパソコンに触れたがらない。あえていえば怖がる。

 それでも否応なく必要になるときがあるので、わしが操作法を教えるのだが、こんな教え甲斐のない生徒はいない。1+2=3に等しいことが通じない。つい、出来の悪い小学生の息子を叱る出来の悪い母親のような言い方になる。で、イッソー突き放す。わしも反省はするのだが・・・。
 ともあれ彼女の機械オンチぶりは、ほとんどファンタスチックである。
 
 そんな彼女がスマホを持つことになった。
 もちろん、それにはそうせざるをえない理由がある。認知症である。

 何度も書いているが彼女にはMCI(軽度認知障害)がある。げんざい要介護1(軽い方から3番目)。

 今はまだ外出中に自分の居場所が分からなくなることはないが、そうなってから慌てるのでは遅いので、音外れがまだ軽い今のうちにムリヤリにでもスマホを持たせ、嫌がるのを強制してでも、ドレミが歌えるくらいに最小限の操作を身につけさせることにした。
 道で自分がどこに居るのか分からなくなっても、最低、わしに電話することができるように・・・。出来れば地図が見られるように・・・。
 
 で、格安端末を購入し、格安携帯電話会社と格安プランの契約をして、ともあれカミさん名義のスマホが彼女の手に渡された。

 最初は大いに迷惑顔であった。コブラをポケットに押し込まれたような顔をした。しかしその必要性/重要性をくどくど説明して、なんとか受け入れてもらった。

 しかし持っていても使えないのでは意味がない。チラチラ舌を出すコブラに馴れてもらうために特訓を始めた。
 まず、端末の側面にある電源キーの押し方から開始。
 それさえ最初のうち、押すキーをたびたび押し間違えた。

 電源を入れたら、まずすべての操作の出発点となるホーム画面を出さねばならないが、そのためには画面上に指を滑らせる(スワイプする)ことが必要だ。
 だがそんな単純なことができない。どうしてもホーム画面が現われない。どんなテクニックを使えばそんな器用なことができるのかと不思議だったが、とにかくホーム画面を出すまでに四苦八苦した。
 
 ・・・という有様だから、その後のスマホ登山がいかに困難を極めたか、お分かりいただけると思う。次回にその山登りの具体的な姿を紹介する。
 

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