以前このブログにこんな記事を書いたことがある。
　昼となく夜となく、そう遠くないどこかから、獣が吼えるような「吼え声」が聞こえてくる･･･という記事。
　
　その声は実は、マンションのわしらの一階下に住んでいる住人（Ｋさん）が出している声だった。
　
　Ｋさんはわしより10歳ほど若い男性で、ときたま通路などで出会うと挨拶するていどの間柄だったが、なんでも週一回のゴルフだけが楽しみ、と聞いたことがある。
　
　そのＫさんが転倒して、頭の打ち所が悪く、脳出血で全身まひに近い状態になった。言語障害も併発して、言葉も失った。
　
　高齢者には得てしてあることだが、週一回のゴルフが唯一の楽しみだった人が、突然ベッドに縛り付けられる身となり、意志表示も出来なくなったらどんな気持ちになるのだろう、と思う。
　
　自分が直接経験していなくても分かる気がする。
　底知れない深い思いが「吼え声」になっているのだろう、と察せられる。
　自分の運命にか、あるいはそういう運命を与えた神にか･･･に対する怒りや怨念のようなものが、抑えようとしても抑えきれず、言葉にはできなくても声として迸り出てしまうのであろう。
　
　始めのうちはほぼ一日中、そのうち２～３時間おきに、さらに４～５時間おきに･･･と少しずつ間遠にはなったが、毎日欠かさず聞こえた。
　そしてその声は、まさに瀕死の獣が追い詰められて出す、「唸り声」とも「吼え声」とも聞こえる声だった。
　
　一年ほど経つとさすがに毎日ではなくなって、数日おきに思い出したように聞こえていたが、ここ数ヵ月はまったく聞こえなかった。
　･･･と思っていたら、亡くなられたという。昨日耳にした。転倒後ほぼ２年である。享年７７歳だったそうだ。
　
　人間は･･･いや生きものはすべて生まれたら必ず死ぬのだから、殊更の話ではないけれど、死に方は人によって様々だなぁ～と思う。
　
　これもいつか書いたと思うが、７歳年上のわしの次兄も、ある日とつぜん廊下で転倒して亡くなった。
　だが死に方はＫさんとは大きく違う。
　
　次兄の場合は、ある日の夕食に晩酌を楽しみ、気持ち良く酔っぱらって、さあそろそろ寝るか･･･とご機嫌で席を立ち、トイレに入って排尿を済ませ、出てきたところで転倒した。
　意識を失い救急車で病院に運ばれたが、意識が戻らないまま翌日早朝に永眠した。行年８１歳。
　
　こういう言い方は不謹慎かもしれないが、Ｋさんと比べれば、ずいぶん楽な死に方である。まさに世に言うピンピンコロリ。それもひょっとすると倒れたさえ意識なく、ご機嫌に酔っぱらった気分のまま昇天したのかもしれない。まさに極上のピンコロである。
　
　いっぽうＫさんは、２年間筆舌に尽くしがたい苦しみの末の死だったろう。
　
　何がこのふたりの死に方を分けるのか。
　
　誰にも分からないことだが、死が近づいている身にはへんに気になる。
　

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