姉への最強の武器だった

 昨日、何十年ぶりかに唐突にあることを思い出した。
 わしには4歳年の離れた姉がいる。この姉とは子供のころ、何かというとケンカしていた。
 半分は遊びみたいなもので、どこにでも見られる姉弟ゲンカだが、口ではどうしてもやり込められる。腕力でも4歳上では敵わない。なにかギャフンと言わせる手はないものかと思っていたら、偶然、ものすごく効き目のある方法を発見したのである。
 
 その頃、「私は街の子」という美空ひばりの歌が流行っていた。「私は街の子 巷(ちまた)の子 窓に灯りがともる頃・・・」という歌詞で始まる。
 何かの拍子にほとんど意味もなく、わしは姉に訊いたのだ。
「巷の子ってどんな子? 股が血だらけの子のこと?」
 そのときの姉の反応が予想しないものだった。ほとんど異常と言いたいくらい。
 まず絶句した。いつもはひとこと言えばすかさず数倍になって返ってくる姉がである。それから顔が赤くなり、白くなった。そして、
「〇〇(わしの名)のバカーッ!!」
 と叫ぶと、まるでお化けにでも出あったかのように走り去ったのである。

 そのときわしは「巷」という言葉を本当に知らなかった。だから訊いたのだし、そのあとに続けた「股が血だらけ」も、単純に知っている音の似た言葉を口にしただけだ。
 姉はその時、おそらくすでに初潮はむかえていたのだろう。だがわしは、女性の生理のことなどまったく知らなかった。だから自分の口にした言葉がこれほどまでに大きな衝撃を姉に与えたことに、私自身まるでチンプンカンプンだった。
 しかしわしは気づいた。これは効くぞと。
 それ以降、理由もよく分からぬまま、ちょくちょくこのフレーズを姉に対抗する武器に使ったのだから、まあ手に負えない悪ガキだった。

 この姉はいまでも80代半ばで生きている。ごくたまに会うが、もはやむかし使ったこの武器は使えない。生理が終わってから30年を超えるのだから。
 もっとも今は、お互い入れ歯でふにゃふにゃ言ってるだけだから、尖った武器などハナから必要ないしねぇ。

ポチッとしてもらえると、張り合いが出て、老骨にムチ打てるよ

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