優しくないの

優しくないの

 女房のわしに対する日頃のクレームのひとつに、「優しくない」というのがある。
 たとえばある日、手にあまる仕事を抱えこんでパニクっている女房に、わしは言った。
「あれもやらなくちゃいけない、これもやらなくちゃいけない、と思うから、頭が混乱してパニックになるんだ。1日は24時間しかないのだから、何もかも全部やろうと思わないで、重要で緊急を要するものからやればいい。大して重要でないものは手を抜くとか、ヒマなときに回すとかして・・・」と。

 すると女房は、
「そんなリクツを言っているヒマがあったら、なにか手伝ってよ!」
 とかえってカリカリする。わしのそういうところが “優しくない” と言う。

 しかし彼女は、「手伝って」とひと言もいってないのである。どの仕事のどういう部分をどういうふうに手伝って欲しい、と言われれば、わしだって協力しないはずはない。
 だが彼女は、「わたしが忙しいのは見れば分かるでしょう!」と言う。だから、いちいち頼まなくても手伝ってやろうと思うのが優しさだ。そうしないのは “情がない” のだと。

 いま若いひとに人気の俳優であり、ミュージシャンであり、文筆家でもある星野源という人(30代半ば)がいる。彼が今年3月に著したエッセイ集に、次のようなクダリがある。

「人見知りをしなくなったのはいつからだろう。(中略)それまで、道端で知人を見かけても声はかけなかったし、集団でいるときも、なるべく一人でいた。
 ある日、ラジオ番組のゲストに出たとき『人見知りなので・・・』と自分のことを説明していることに、ふと恥ずかしさを覚えた。それがさも病気か何かのように、どうしようもないことのように語っている自分に少し苛立ちを感じた。
 それまで、相手に好かれたい、嫌われたくないという想いが強すぎて、コミュニケーションを取ることを放棄していた。コミュニケーションに失敗し、そこで人間関係を学び、成長する努力を怠っていた。
 それを相手に『人見知りで・・・』とさも被害者のように言うのは、『自分はコミュニケーションを取る努力をしない人間なので、そちらで気を使ってください』と、恐ろしく恥ずかしい宣言していることと同じだと思った。」(星野源著/KADOKAWA刊『いのちの車窓から』99~100p.)

 留学や仕事等で欧米で生活したことのある人は異口同音に言う。
「あちらでは自分をきちんと表現できなければ、軽蔑されたり無視される。人間としてまともに扱ってもらえない」
 これは中国や韓国でも同じらしい。いや世界中どこでもそれがふつうだろう。
 
 ところが日本には「察する」ということを重要視する文化がある。
「言葉に出さなくても、それくらい察してよ」
 と言われたり思われたりするのは、日本ではごく日常的なシーンだ。
 日本は、他国に侵略されたことのない同一言語・同一民族の島国だから、というのが、この “察する文化” の背景として語られる定番である。
 しかし、人間はもともと十人十色である。ひとりひとりみんな顔や指紋が違うように、考えることや感じることは違う。それは同一民族、あるいは島国であるなしには関係がない。

 それを考えれば、
「自分はコミュニケーションを取る努力をしない人間なので、そちらで気を使ってよ」
 みたいな態度をとることは、相手に失礼であるばかりでなく、自身が “恐ろしく恥ずかしい” 振る舞いをしていることである。
 そのことに日本人はもっと気づくべきだとわしは思う。
 世界中がグローバル化した現代では特にそうである。
 まさに、日本の常識は世界の非常識なのだ。
 というか、世界と比較してどうのこうのではなく、人間のあり方としてそうあるべきだとわしは思う。
 ストレートな表現を避けて婉曲なもの言いを尊ぶ日本語の素晴らしさと、混同すべきではない。

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優しくないの” に対して 4 件のコメントがあります

  1. むらさき より:

    奥様の気持ち・・・よーくわかりますよ・・・
    言葉にせねば所詮わかってはもらえないことも・・・
    しかし、男性をあごで使うのは失礼なので、自分でできることは自分でしなければ・・・自分にはどうにもできないことを男性にお願いしなければと思っていたわたくしは、お料理が得意な男性や、イクメンとやらや、女性に一生懸命尽くしている近頃の男性を見ますと、自分は家政婦か?私が尽くすことが当たり前とお思いか?「なにか手伝おうか?」となぜ言えぬ???と思うわけですよ。歳を重ねたのは私も同じなのですよ。若いころはできていたこともできなくなってきましたが、主婦には定年がありませんから・・・
    半ボケじじいはうちの夫と同じじゃの・・・
    バカ、バカ、バカ!

    1. hanboke-jiji より:

      いやあ、女性はやっぱり同じように感じるんだなあ。
      むらさきさんの気持ちはほぼわしの女房といっしょ。
      真水酒乱会 鯉心も(女性化男性化わからんが)同じ意見の
      ようだし・・・。
      こりゃもう少し深く女性の胸の中・・・というか心の中に潜りこんで
      みなきゃいかんかのう。
                        (半ボケじじィ)

  2. 真水酒乱会 鯉心 より:

    いやいや、これは違うんじゃね?
    忙しい人を手伝わずに理屈こねるとか、割と最悪で
    で、言わんと分からんって
    いやいや、忙しい状況がわかっちゅうがやき、なんか手伝おうや。何してえいか分からんってとこが情がないのよ

    あや、えらっそうにごめんなさい

    1. hanboke-jiji より:

      昨日の夜おそくコメントを寄せてくれた「むらさき」さんも
      鯉心さんと同じようなことを書いていはった。
      鯉心さんは男性か女性かわからんが、もし男やったら、
      両性から反論がきているわけで、旗色が悪い。
      少し反省してみるか・・・という気持ちになったよ。
                     (半ボケじじィ)

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