老いた自分に気づくとき -若く見られたい心理-

若く見られたい心理

 テレビのニュースショーを見ていたら、レポーターがどこかの漁港で、老漁夫にインタビューしていた。サンマの漁獲量がことしは昨年の半分以下ということで、現場へ取材をかけていたようだ。
 そのときレポーターは、80歳前後の老漁師に、お父さんお父さんと「お父さん」を連発していた。

 男性にかぎらない。女性でも中年以上であれば、初対面で名前が分からないと「お母さん」と呼びかけるのはふつうにあるようだ。

 ところで、わしら夫婦には子供がいない。だからわしは「お父さん」と呼ばれることがほとんどなかった。

 50歳前後のころである。縁日で骨董品を冷やかしていたとき、「お父さん、これ買い得だよ、持ってかない?」と声をかけられたときは、透明人間に横から足払いを食わされたような気がした。
 思わずまわり見まわして、「お父さん」と呼ばれたのは自分以外にないと知ったときの奇妙な違和感は、今も体のどこかに残っている。
 これは自身に子供がいて、若いときからお父さんと呼ばれ慣れしている男性には分からん気持ちだろうと思う。

 さらに年齢が進んで60代の半ばごろだったろうか。
 生まれて初めて「おじいさん」と呼ばれたときのショックは、もう少し大きかった。
 夫婦で自宅近くの道を歩いているときだった。向こうからきた20代半ばくらいの見知らぬ青年が、すれ違うときニコッとして「おじいさん、おばあさん、こんにちは」と元気な声で挨拶したのである。

 それまで「おじいさん」という概念がわしの中にまるでなかったので、「おじいさん」と呼ばれたことのショックは大きかった。すれ違いざま「キツネさん、こんにちは」と声をかけられたのとほとんど同じくらいの気分だった。60代の半ばといえば、十分に “おじいさん” の資格はあるんだけどね。

 ちなみにその青年にはその後何度も同じ道で出会って、同じように挨拶された。向こうから彼が来るのがわかると、「あ、またおじいさんにされるぞ」とへんに及び腰になって、逸れる道がないかとキョロキョロ辺りを見まわしたものだ。

 そのうち、彼は知的障害のある青年だと分かったが、それで自分が「おじいさん」に見えるという事実が変るわけではなかった。むしろ雑音のない正直な目で見た反応だったわけで、より客観的な鏡を見せられたのだと気づき、かえって落ち込んだのを覚えている。

 もう一つ思い出すのは、いつか電車で、自分とほとんど同年齢と思われる老人に席を譲られたときだ。本来なら感謝してしかるべきなのに、むッとしたのを憶えている。

 こうした体験が示しているのは、当時のわしの無意識の中に、少しでも若く見られたい、老人扱いされたくない、という心理があったということだろう。

 もちろんこういう心理はわしだけでないだろう。いつか女子大生が女子高校生に向かって、「あんたら、今ウチらのことをおばはんだと思っだだろ!」といきまいて責め寄っているのをテレビで見たことがある。

 人に少々若く見られたところで、人生になにか良いことが起きるわけではない。宝くじに当たる確率が2倍になるわけでも、その年の税金が半分に減るわけでもないのだ。

 容姿を売り物にして食ってる俳優やモデルなら話はべつだが、わしのように顔やスタイルを売り物にしたらたちまち失業確実という種類の人間には、人に少しくらい若く見られようが見られまいが、何の関係もない。実質的利害はなにもない。
 にもかかわらず、ネコもシャクシもネズミもシャモジも等しく若く見られることにこれほど執着するというのは、なぜなのだろうかと思う。

 おいおい、なにをゴチャゴチャ言ってるんだ?
 そんなヒマがあったら、さっさと店じまいの段取りでも考えろ。
 はいはい。じゃこれでおしまい。尻つぼみになるけど知らんよ。
 アホ、店じまいするのはこの記事じゃない、お前の人生だ。

ポチッとしてもらえると、張り合いが出て、老骨にムチ打てるよ

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老いた自分に気づくとき -若く見られたい心理-” に対して 2 件のコメントがあります

  1. むらさき より:

    わかるわ~♪
    女はホントに若く見られたい気持ちが大きいんですよ(汗)
    通販だって、ほとんど若見せの化粧品だしね(笑)
    売れるんでしょうよ(笑)
    私も、実はずいぶん買いましたわ(爆)
    んで、ある日気が付きました!若く見せたって60歳は60歳じゃん!
    私は厚化粧の美魔女になりたい訳でも、筋肉モリモリのばあさんになりたい訳でもないんだ!
    年齢なりに小奇麗なばあさんを目指そうってね♪
    爺さんだって、若見えのエロ爺は気持ち悪いが、垢抜けた小奇麗なエロ爺は気持ち悪くないもんね~♪
    ぎゃははは♪

    1. Hanboke-jiji より:

      むらさきさんにだけ白状するよ。
      男だって少しでも若く見られるとうれしい。
      それは本記事で書いた通り(ナンダ、白状じゃないじゃん)。
      その理由も本記事で書いた(白状じゃない!)。
      ただし現状(80歳のわし)は、ようやくそういう”若く見られたい症候群”から
      ようやくほぼ解放された。
      といって、その舌の根も乾かぬうち言うのもなんだが、
      リアル女性の手になるこのメントを読んで、
      「よし、じゃ、垢抜けた小奇麗なエロ爺をめざそー」
      ・・・なんて思ってるようじゃ、まだ”症候群”から抜けてないな。
      やれやれ人間って面倒だ。

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