物がモノノケになる(「老人のみに起きるふしぎ」続編 )
前回、「老人のみに起きるふしぎ」と題して、老人周辺で起きる “神隠し現象”、つまり突然モノが消える話を書いたら、知人のひとりからメールがきた。
ドイツ文学者・池内紀さんも、自著で同じようなことを書いていると言う。(前回の記事はこちらから)
早速、池内紀著『すごいトシヨリBOOK』(毎日新聞出版刊)を買ってきて読んでみた。たしかにある部分に、老人のまわりで起きるさまざまな不都合が列挙してあって、それは “モノノケ” のしわざだと書いてある。
たとえば、年をとると「急に茶碗が手から落ちたり、物にぶつかったり、テーブルの上の何かが倒れたり、レストランでコーヒーカップをひっくり返したり」する。あるいは「たった今、ここに置いたメガネがなくなる」。
それらは「周りの物が年寄りをからかって、いたずらをするからだ」と池内氏は考えているという。
「生き物が魔物になるのと同じように、モノがモノノケになって年寄りをからかう。『物がいたずらする』というのが、老いの特性です。」
と彼は同書に書いている。
なかなかおもしろい考え方だと思う。
「生き物が魔物になるのと同じように、モノがモノノケになる」
という発想がまずおもしろい。
そして、年寄りに若いときにはなかった様々な不都合が生じるのは、加齢によって衰えるからではない、老人周辺のモノたちがモノノケとなって “いたずら” をするせいだ・・・と啖呵をきる堂々たる責任転嫁の姿勢がカッコいい。
それは、「この桜吹雪が目に入らぬか!」と、お白州で片肌脱ぎになる遠山の金さんを見るようで胸がすく。「よオー、池内ィーッ!」と声を掛けたくなる。
それだけではない。池内氏の筆は、そういうモノノケたちとどう戦えばいいかいという “モノノケ対策” にも及んでいる。
彼は言う。
たとえば突然消えたモノは、こっちが「目を皿のようにしていると絶対に出てこない」と。「『まあ、いいや、勝手にせえ』と、諦めたフリをする。老人はフリをするのはうまいんだから・・・」と。
そうしておいて、いきなりパッと戸を開けたり引出しを開けたりして、不意打ちをかける。すると、モノノケといえど虚を突かれて尻尾を出す・・・と。
ま、そういう風にして、モノノケと知恵比べをしてアソブのも、若者にはできない老人のみに許された人生のよろこびである、と彼は言いたいのだろうとわしは読んだ。
さすが、大人の風格をただよわす池内先生でなければ出てこない言葉だろう。
(次回は、同じ『すごいトシヨリBOOK』に書いてある「下ネタ」がらみの話を、「ウンコに名前をつける」と題して書く)
※池内紀著『すごいトシヨリBOOK』(毎日新聞出版・刊)
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