メスとオス
何度か書いているが、わしは朝起きたら1番にベランダに出て、体操をするのを日課にしている。
あまり言いたくないがコレをやらないと、老人の体はたちまち腐るからだ。
もう少し現実的に言えば、体が枯れ枝みたいに硬くなる。
ベランダからほぼ4,5メートルほど先に、電線が横に走っている。 その電線にときおり鳥が飛んできてとまる。カラス、スズメ、シジュウガラ、ツバメ、鳴き声はよく聞くが名前は知らない鳥・・・といったごく平凡な鳥たちだ。
で、これから話そうとしているのは、そんな鳥たちの1種ハトである。
数日前の朝のことだった。
体操をするのがなんとなくかったるくて(そういう日が1週間に1回ほどある)、ボーッと突っ立ったまま前を見ていると、4,5メートルほど先の電線に1羽のハトが飛んできてとまった。 何のヘンテツもないふつうのイエバトだ。ふくらんだ胸の辺りや、軽く片羽を広げてその付け根あたりを、くちばしでつついたりしている。
見るともなしにぼんやり見ていた。
しばらくするともう1羽ハトが飛んできた。
先客より50センチほど離れた左隣(わしから見て)にとまり、足元の電線に2,3回くちばしをこすりつけてから、あとはなにげない風に前を向いてじっとしている。
最初わしは番(つが)いかと思った。
しかし夫婦にしてはちょっとよそよそしい感じがしないでもない。
・・・そう思って見ていると、あとから来た方(わしから見て左側にとまった方)が、さりげなく数センチほど右側のハトのほうへにじり寄った。
すると右側のハトは、ちらりと左のハトをみてわずかに身じろぎしたが、それだけだった。
さらにしばらくすると、また左のハトが右のハトのほうへ寄っていった。寄せ幅は前回よりすこし大きい。
すると右のハトはススッと右へ動いた。つまり離れて距離を保った。しかしその離れ幅は、左ハトの寄せ幅の半分くらいだ。つまり2羽のあいだの距離はすこし縮まった。
しばらくすると三度び、左ハトが右ハトのほうへ寄った。
すると、右ハトはその寄せ幅の半分くらいまた離れた。
そういうことを数回くり返して、結局、2羽のハトの間は10センチくらいになった。
それからの左ハト(おそらくオスだと思う)の動きは、かなり積極的になった。どうやらそれまではメスの反応を確かめていたらしい。
くちばしをメスのくちばしに近づけていって、つついたりこすりつけたりするような動作をする。
メスバトは首を反らし避けるようとする風情だが、オスバトはいっそう首を伸ばして求めつづける。
オスの求愛(…と思う)がほんとに嫌なら、メスバトはさっさと飛んで逃げればいいと思うのだが、そうしないところを見ると、メスのほうもオスバトのアタックがまんざらでもないらしい。
ただ、その求愛がさらに激しくなったとき、メスバトはパッと電線から飛び立って逃げた。するとオスバトも間髪入れず後を追い、2羽はたちまち視界から消えた。
オスの追う行動が躊躇するところなく素早かったのは、おそらくコレは脈があると踏んだのにちがいない。
「追えば逃げ、逃げれば追う」
・・・という俗言があるのを思い出しながら、わしは思った。
人間は万物の霊長などといってイバっているが、生きものの基本に関わる行動は、人間もハトもたいして違わないなァ~と。
そう思って、どこかホッとするところがあった。
人間は、自分が作り出した人工知能にやがて追い越されて、その奴隷的存在になる・・・などと言われている。
だが、たとえそうなったとしても、コトこういう事柄に関するかぎりは、やはり今のハトと同じようなことをするのだろうなァ~、と思ったのだ。
すると何やらすこし元気が出てきて、やる気のしなかった朝の体操をやる気になったのだった。
・・・って、何だろうねコレ。
当ブログは週2回の更新(月曜と金曜)を原則にしております。いつなんどきすってんコロリンと転んで、あの世へ引っ越しすることになるかもわかりませんけど、ま、それまではね。