あんたはどっち、譲る派? 寝たふり派?

電車であなた席譲る?

 前回若くありたい人間の心理についてちょこっと書いたが、それのつながりで今回もう少し。(前回の記事→「老いた自分に気づくとき -若く見られたい心理の奥-」)
 
 わしが電車やバスで席を譲られるようになったのは、何歳くらいの頃からだったろうか。
 ふとそう思って調べてみると、前回の記事で、知的障害の青年に「おじいさん、こんにちは」と声をかけられた時と、電車やバスで席を譲られるようになった時期は、ほぼ同じ頃だった。
 そういう意味では、やはりあの青年の目は、ノイズ・ゼロの純粋さが生んだ客観的な正確さを示していたといえる。

 電車で初めて席を譲られたときは、初めて「おじいさん」と呼ばれたときほどではないにしても、やはり少々ショックだったが、より複雑な気持ちもあった。
 その底には、「席を譲られるほど自分は老人に見えるの?」という不服の気持ちがひそんでいたように思う。
 まったくもって独りよがりだったという以外にない。

 しかしその後、席を譲られることが重なるにつれ、次第にそうした抵抗感もうすれた。
 どころか、疲れているときに譲ってくれる者が誰もいないと、
「あ~あ、日本人ってハクジョーだなぁー。マナーが悪いって評判の中国人でさえ、車中で席を譲る若者は日本よりはるかに多いっていうぞ」
 などと、ここでもまた自己中的な思いが頭のなかでヒラヒラしてるんだから情けない。

 しかし、車中で席を譲らないこの日本人の傾向は、単に弱者に対する思いやりが薄いというだけでなく(もちろんそれも大いにあるが)、日本人に特有の心理がかかわっているのではないかという気もする。

 空席のない車内に、高齢者とかお腹の大きな妊婦とかが乗ってきて近くに立ったとする。そのとき、座席にすわっている人の反応は大きくいって2通りに分けられる。席を譲る人と譲らない人である。当たり前だけど。

 席を譲らない人にはいくつかのパターンがある。
①目の前に大きなお腹の妊婦が立っていようが、よぼよぼの老人がよろけていようが、まるで眼中にない人。このタイプは主に、男女を問わず健康でスラリと脚の長い若者であることが多い。

②高齢者・妊婦等が立っていることに気がついたとたん、居眠りをはじめたり、スマホをいじりはじめる人。若者にかぎらない。脚の短い中年のおばさんにもこういう人はいる。

③気がついているが、ぜんぜん気づいていないという振りをする人。特技は狸寝入り。

④気がついてチラリと目を走らせ、その目に一瞬かすかなゆらぎも走るが、すぐ無関心に戻る人。特技はアタマの切り替えの速さ。

 一方、席を譲るほうの人も大きく分けると2通りある。
①反射的にぱっと立って譲る人。
②譲るまでに少し時間がかかる人。

 ①の人はとにかく行動が素速いし、自然である。高齢者や妊婦などに席を譲るのは、若い者あるいは頑健な者の当然のマナー、という自覚が身についている。譲ってあげますよ、といった親切がましさがない。

 ②の人の場合は、心の中に、譲ろうかやめようかという葛藤がある。
 その葛藤を生んでいるのは、単に、譲るのはイヤだというエゴからだけではない。もちろんエゴが絡むこともないではないが、日本人の場合多いのは、頼まれたわけでもないのに “差し出がましい” とか “お節介っぽい”という気持ちが働くからだと思う。
 わしも日本人のひとりだからそのケがあるが、とにかく独りよがりの “善意の行為” で、かえって相手に迷惑がられるという無神経な振るまいは、できるだけ避けたいという気持ちが日本人には強い。

 もう一つは、”恥ずかしい” という気持ちが働くことだ。社会的弱者に席を譲るといった明らかな “善行” を、人前で自分がやるのは何やら気恥ずかしい・・・という感覚。

 こうした心理が働くので、心中譲りたいと思っても、実際に行動に出るのをためらう。そっと周囲をうかがって、誰かが先に立たないかな・・・などと考える、そして誰も立ちそうもないと分かってようやく、ひそかに尻にコン棒一発くれて立ち上がる。

 日本人は①よりこの②のタイプのほうが多いのではないかと思う。実をいうとわしもそのタイプだ。

 ともあれ、自分もその1人だから言うんだけど、まあ日本人というのはしちめんどう臭いところのある国民性だと思う。

 アメリカ人みたいに小さなことにこだわらず、いいと思うことは単純に大らかに堂々と言い、行動できればいいのに・・・と思わないでもない。
 といっても、アメリカの現在の大統領みたいに “単純にあつかましく堂々と” にはなりたくないけど。

ポチッとしてもらえると、張り合いが出て、老骨にムチ打てるよ

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