爆発した玉(1)

医者と喧嘩

 わしはツラの皮は厚いくせに、カンシャク玉の皮は薄いらしい。
 どちらかというと破裂しやすい傾向がある。
 ・・・とカミさんが言う。おそらくそうなのだろう。当人にも自覚はある。

 前回の記事で、「消えた玉」の話を書いたら、その「玉つながり」で、もうひとつの玉経験を思い出した。
 つまりそれが当記事のタイトルにした「カンシャク玉」だ。実をいうとあまり後味のよい経験ではない。

 もう20年ほども前になる。
 近所の医者と喧嘩をした。わしはまだエネルギーがあり、カンシャク玉も今より元気があった。そのため、その前年にもやはり近くの別の医者と一戦交えたばかりだった。

 今回の喧嘩の理由は単純だ。ある日、持病の糖尿病の診察を受けて、薬を出してもらった。
 以前から服んでいる薬で、わしは薬名を知っている。ところが家に帰って袋を開けてみると、名前も風体も初めて見る薬が出てきた。薬が変わったらしいが効能は同じなのかも・・・と念のためネットで調べてみたら、肝炎の薬だった。明らかに医院のミスだ。

 電話を入れて医者に確かめた。すると医者は謝りもしないで、持ってくれば取り替えると言って、乱暴に電話を切った。
 取り替えるのは当然のハナシだ。そもそも向こうサンの手落ちなのだ。「すみません」とか「申し訳なかった」のひと言くらいあってもバチは当たらん。なのに「持ってきたら取り替えてやるぜ」といった応答だった。実際に「~やるぜ」と言ったわけじゃないが、声の調子というか伝わってくる雰囲気が、そういう感じだったのだ。
 そもそも本来なら、菓子折り持ってなどと言わんから、向こうサンが持ってくるべきだ。なんの落ち度のないこっちが出かけるスジアイはない。

 この時すでにわしのカンシャク玉のか弱き皮は、ピクピク動いていたが、まあなんとか抑えた。一応、いい年(当時古希前後)のおとなだからねぇ。寒風のなかを(寒い時だった)厚着してふたたび医院へ出かけた。順番がまわってくるまで30分ほど待たされて、受付けでようやく薬を取り替えてもらった。

 カンシャク玉の導火線に火がついたのは、実はこのときである。
 金を請求されたのだ。薬代は先ほど払ってある。間違えた薬との差額か・・・と一瞬思ったが、いつもはそんなに多く払っていない。受付けにそう言うと、いやこれは薬代ではありません、先ほどお客さまが家から電話をかけてこられた時の、電話による診療費です、と言われた。

 とたんに爆発が一歩にじり寄ったね。玉がビリビリと震えはじめたのが分かったよ。
 でもわしとしては必死にガンバッて抑えこんだ。相手は受付けの女事務員だ。電話の内容を知らないのだろうと思い、冷静に説明した。さっきの電話は、医療の相談をしたのではない、そっちの出した薬が間違っていること知らせただけだ、と。

 それでも、受付の若い女は態度を変えなかった。
「患者サマが外から電話をかけてこられて、先生が電話口に出られてお話をされたら、内容を問わず、電話による診療費を頂くことになっております」
 ここでついにわが薄皮製カンシャク玉は、第一次爆発をしたね。
「そんなバカな話があるか。自分のほうに落ち度があったのに、その尻ぬぐいを患者にさせるのか、ここは!」
 たしかに声はかなり大きかったと思う。待合室の目がいっせいにこっちを向いたのがわかった。女事務員はさすがに当惑した顔になって、
「ご不満があるなら先生に直接お話してください」
 もちろんそうする、とわしがフン然として診療室のほうへ行きかけると、
「あの、先生はいま別の患者サマの診察中です。順番をお待ちください」
 と止められた。それでもなお、その制止をふり切って診察室へ突入する剛力は、情けないがわしにはなかった。待合室の、見ない振りしながらチラチラこちらへ向ける視線を浴びつつ、湯気の立ち昇った頭をけんめいに慰撫して、わしはまた30分ほど待たされた。
 
 こうして書いていると、当時のことがアリアリと思い出されて、ムカムカしてきた。このまま書きつづけると、またバクハツしそうだ。頭を冷やすために少し間を置くことにする。
 つづきは次回まで順番をお待ちください。(次回はこちらから)

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