年寄りはつらいよ

工事現場の誘導員

 おたがい見ず知らずなのに、とても親切な人がいる。
 人が・・・というより、そういう職種の人が・・・と言ったほうがいいかもしれんがね。
 相手に取り入ってモノを買わせようとか、高齢者に親切ごかして近づいて金を巻き上げようとか、そういった連中の話じゃない。
 街中といわず住宅地といわず、外を歩いているとちょくちょく出会う。
 つまり路上で働いている人たちだ。

 ・・・なんて別にもったいぶるこたァないわナ。
 ひとことでいえば工事現場ではたらく警備員さんたちだ。
 なにかの建設現場の出入り口とか工事中の道路に、小旗や誘導灯をふってクルマやヒトを誘導する人たちがいるよね。警備会社に雇われているらしいけど、警備員というより誘導員というべきなのかもしれん。

 ほとんどが男だ。たまに女性や若い人もいないことはないが、多くは老年の男性。定年退職したんだけど、何もすることがない。何にもしないで家でテレビのお守りをしている・・・違った、テレビにお守りしてもらっているより、からだが動くあいだは働きたい・・・といったまじめでけなげな高齢の男性たちだ。
 昨今は政治が悪いので、定年後も働かなきゃ生活ができない・・・というケースもあるだろう。切ないね。

 この仕事、けっこうきついと思うよ。ただ突っ立って小旗(あるいは誘導灯)を振ってるだけのように見えるかもしれんが、この○○だけ・・・というのがきついんだ。単純だからすぐ飽きちゃう。飽きたことを我慢してやらなきゃならんってのは、人間にとっていちばんつらい。

 そのうえにだ。ただ突っ立っているだけでも、高齢になるとつらいワ。それも朝から晩まで1日じゅうだよ。頭から湯気がのぼるクソ暑い夏も、手足が凍える寒い冬も、冷暖房なしの路上にずっと立ってなきゃならん。疲れたからといって、ちょっとゴメン、なんてって座りこむわけにはいかない。

 ほんとうはもっと楽な事務系の仕事のほうがいいんだろうけど、そういう仕事は老人にゃまわしてくれん。老いて体力が衰えている人に肉体的にきつい仕事をさせる。人間社会ってのは冷酷なんだ。

 それでも、家でブラブラしているよりはいい。何もすることのない退屈な時間を抱きかかえて、そのうえ女房に役立たずのゴミでも見るような目で見られているよりはいい。

 で、わしが言いたいのは、こういう、決して楽じゃない職場で働いているのにだよ、誘導員さんたちってなんか優しいの。もちろん全部が全部ってわけじゃないよ。でも優しいひとが多いような気が、わしはする。

 工事現場を通りかかると、タケノコに赤いペンキ塗ったみたいな三角コーンが置いてあるあたりで、ヘルメットの下の顔をニコニコさせながら、
「申し訳ありませんけど、こちらからお通りください」とか、
「ご迷惑おかけしてすみませんねえ」とか、
「足元に注意してくださいね、昨夜の雨で滑りやすくなってますから」
 みたいなこと言って誘導してくれる。
 もちろん彼らを雇っている警備会社が、そう言えと指導しているのかもしれん。だがマニュアルは心まで指導できない。多くの誘導員さんは、心からニコニコして声をかけてくれてるように見える。

 わしが年でよぼよぼしてるからだろう、って今あんた思っただろ。
 じつはわしも最初はそう思った。でもね、気をつけて見ていると、横むいて知らん顔している若いアンちゃんにも、同じように親切なことばをかけてる。

 でね、思ったんだ。ひょっとすると、声をかけることが彼らの気晴らしなんじゃないのかなって。面白くもない退屈な仕事だからって、黙って不機嫌な顔してやってると、よけい気がめいる。そうじゃない?
 
 幕末の長州藩の志士・高杉晋作のよく知られた辞世に、
「おもしろきこともなき世をおもしろく住みなすものは心なりけり」
 というのがあるだろ。これをわが身のささやかな現実のなかで実践しているのが、彼らじゃないのか・・・なんて思ったわけデス。

 でもその後にまたべつのことを思った。
 やっぱり狂ったように暑い日だったけど、工事現場を通りかかったとき、いつものように声をかけられたんだ。
「すみませんねえ、ご迷惑をおかけして・・・」
 そのときの誘導員さんの声と態度が、ほんとうに心からのものだった。マニュアルに指導されただけじゃあんな声は出ない。それでわしも自然に反応したのね。
「この暑いのに、あんたたちも大変だねえ。・・・ご苦労さん」
 すると、その誘導員さんの顔がぱっと輝いたの。ほんとうにうれしそうな顔をしたの。マンガが大好きでヒマさえあれば熱心に描いている子どもがいて、しかし親も先生も友だちもだれもほめてくれない、どころかチラとも見てくれない・・・そんな自分のマンガを、ある時たまたま目にしたどこか知らないお兄さんが、心からほめてくれた・・・そういう子どもの顔だった。
 
 彼らの労をねぎらってくれる人なんて、何百人何千人にひとりいるかいないかだろう。しかし一所懸命じぶんの仕事をやっていると、そのことを見ていてくれてる人もいる。そう思えることが、やり甲斐になるってこともあるんじゃないのか・・・そう思ったんだ。

 それ以来、わしは工事現場を通るときには、できるだけ声をかけて労をねぎらうようにしているよ。

 もっとも、その時の気分しだいでできないこともある。こっちにも人生の事情があるからね。特に女房とケンカしたあとなど、なかなか声をかける気分になれない。エネルギーが出ないんだ。
 で、心のなかで「ごめん」て言いながら、仏頂面したまま通りすぎる。
 で、そのあとよけい気分悪くなる。バカだよなァ。

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年寄りはつらいよ” に対して 2 件のコメントがあります

  1. むらさき より:

    ホントにそう思いますね~
    あのお仕事は大変だわ。
    わが町は田舎なので車の誘導が多いんだけど、旗を振り間違えたら大変よ!
    バックに自信がない私に取っちゃ、神様みたいなもんよ!
    だからね、車の時は必ず頭を下げることにしています。
    歩きの時は「ありがとうございます」と言葉を添えて頭を下げます♪
    そうすると、きっとあちら様も、もちろん私も気持ちがいいので♪

    1. Hanboke-jiji より:

      世の中捨てたもんじゃないですね。
      あの人たちをちゃんとねぎらってあげるひとがいるんですねぇ。
      それも頭に毛のないじィさんにされるよりも、
      たとえ車の中からでも、妙齢のご婦人にされたら、
      それだけで一日の疲れがふっ飛ぶんじゃないですかねぇ!

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