マスクは空気を通すか?

マスクをした女

 ある朝出がけに、女房が顔にマスクをかけながら言った。
「マスクって、空気を通すのよね」
 彼女が手にしているマスクは、もちろん毒ガス用のマスクなどではない。ごくふつうの、風邪や花粉予防に顔にかける白い布製のマスクだ。
 わしは一瞬内心ドキンとし、いや、からかったのだろうと思い直しながら古女房を見返した。
 女房の目は笑っていなかった。考えてみればそもそも彼女は、こういったすっとぼけたジョーク口にするタイプではない。
 わしはこころを落ち着かせて騒がずに答えた。
「マスクはちゃんと空気を通すよ。心配ない」
 じつは腹の中はけっこう騒いでたんだけどね。
 女房は鏡の前で、マスクの位置を整えながら、
「そうよね。マスクは空気を通すわよね」
 といつもの声で言い、いつものように出かけて行った。

 彼女が出たあとで、わしはずっと落ち着かなかった。 
 さっきも書いたが、冗談を言ってる様子はなかった。本気で布製マスクは空気を通すかと訊いた風だった。
 だとしたら・・・

 もちろんわしの頭をひやりとよぎったのは、今や老人病ランキングの1位をガンと争うあの病気だ。
 最近、もの忘れが以前よりひどくなったのではないか・・・とひそかに不安に思うときもあっただけに、その日いちにち頭から離れなかった。

 その夜、夕食のあと片付けも終わって一息ついたときに、さりげなく言ってみた。
「朝、出がけに、マスクは空気を通すかって訊いただろ。あれ、冗談だったの? それとも・・・ひょっとして本気で訊いた?」
 すると女房はあっけらかんと答えた。
「まあ冗談だわね」
「まあ・・・まあって?」
「そら、近ごろ、みんなが信用している大きな会社がウソついてて、あっちやこっちでペコペコ頭下げてるでしょ。たとえば地震の免震装置を作ってる会社が、検査データでウソをついてて、そのウソをついた装置が、東京都庁やスカイツリーにも使われてるんだってよ」
「・・・それ、マスクと関係ある?」
「特に関係はないけど、今朝マスクをかけてるときに、なぜかひょいとそのことが頭に浮かんだの。それで何となく思ったわけ。このマスクを作っている会社、ウソついてないかしら・・・って。で、ちょっと言ってみたの。もちろん冗談になるって思ったわよ、最初から」
「でも、けっこうまじめな顔してたよ」
「そりゃそうよ。こういう冗談は、まじめな顔して言わなきゃ冗談にならないもの」

 わしはひと安心した。これだけの分析と説明ができるのであれば、青くなって明日病院へ連れて行く必要はなさそうだと思ったからだ。

 それにしても・・・と、ほっとした反動で意識はいきなり安直に大問題へハンドルを切った。最近のニッポンはどうなってるのかねえ、と。
 常々、物づくりでは世界一と言っているのに、あちこちの物づくり現場でひそかに姑息・卑劣な手段を使っていたり、国のトップにいる人間がウソをつきまくっていながら平然としていたり・・・。

 一刻も早く病院へ連れていかなきゃならんのは、わが古女房ではなく、わが母国なのかもしれん。
 いや病院より効果の早い神頼みのほうがいいか。
 ・・・にしても、今までたびたびお参りしてた超大国米造之命神社は、吐乱腐とかいう金髪男が大宮司になってから、だいぶおかしくなってるしなあ。

 ああ、故国ニッポンどこへ行く・・・ってか。

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