ひっくり返された亀
年をとると、思ってもみなかったことが、思ってもみないときに起きる。
それを面白いと思うか辛いと思うかは当人しだい。
ところで、わしはふだんベッドで寝る。学生時代からなので、ほぼ60年間、夜はベッド上だ。美女の上もしくは札束の上・・・って言えないのが残念。
もっともごくたまに、畳のうえに布団を敷いて寝ることがないわけではない。その場合は布団から起き上がるとき、半覚半睡のあたまの中で一瞬とまどうが、それでどうということはこれまでなかった。
ところが先日、布団のうえで思いがけない事態に遭遇して驚いた。・・・というか、正直にいうとショックだった。
先だって義母が脳梗塞で倒れたため、わしらは何日間か義母の家に寝泊りした。病院へ通うのに自宅からでは遠すぎたからだ。
義母の家にベッドはない。日本古来の伝統的寝具 “畳のうえに敷いた布団” のお世話になった。
で、最初の夜だった。夜半にトイレに行こうとして、異変に気づいた。起き上がれないのである。
布団のうえに上半身を起こすことはできるのだが、問題はそこから。どうしても立ち上がれない。2本の足の上にすっくと立てない。
ベッドだと、立ち上がるのにべつに困難はない。
肘を使って上半身を起こし、尻を軸にからだを90度まわして足を床におろす。そして立ち上がる。毎日なんの苦もなくやっている。
だがこの夜、布団から立ち上がろうとしても立ち上がれなかった。
足や腰や、上半身を支える腕に妙に力が入らない。
なんだこりゃ。何が起きたんだ!?
・・・と、空気を吸っても肺のなかに空気が入ってこないような焦りで、ややパニックぎみにジタバタした。
が、やはりどうしても立ち上がれない。地面のうえでひっくり返された亀状態。けんめいに手足を動かすのだが、むなしく宙を掻く感じだ。
しかし、あとで冷静になってみると、何もうろたえることはなかった。べつだん病的な障害が発生したわけではなかった。
人間の筋肉は使わないと衰える。誰でも知っているが、ただその衰え方が高齢になると、若いときより格段にスピードが速くなる。
ふだん使わないで放っといた筋肉を、こっちの都合でいきなり引っぱり起こして使おうったって、そりゃムリですよダンナさん、となるのはトーゼン。
人間にもいるよね。ふだんこっちが困っているときは知らん顔しているくせに、自分のほうが困ったときは気安くモノを頼んでくるヤツ・・・。そんなヤローなんか助けてやるもんか・・・という気になるわナふつう。
ともあれ布団のうえで寝たのはほぼ1年ぶりだった。
わずか1年ほど使わなかっただけで、こんなにダメになっちゃうんだ、80歳の筋肉サンって・・・。
・・・ということを改めて思い知らされる出来事だった。
で、これだから年は取りたくないんだ・・・とミジメに思うか、いい経験をした、ふだんやるべきことをちゃんとやっとかないと、いざというときに役に立たんし誰も助けてくれんぞ、と教えてもらったと喜ぶか。
ま、どっちにしても先が短いんだから、どっちでもいいんだけどサ。
当ブログは週2回の更新(月曜と金曜)を原則にしております。いつなんどきすってんコロリンと転んで、あの世へ引っ越しすることになるかもわかりませんけど、ま、それまではね。