陽気な隣人

宣教師

 何回か前に、隣に住んでいるアメリカ人のことを書いたが、わが集合住宅にはほかにもアメリカ人が住んでいる。

 集合住宅といっても、テラスハウス型の家が10軒ほど中庭を囲むようにして並んでいる、ごくちんまりとしたものだ。

 外出するときは皆その中庭を通っていくので、住人たちはいやおうなく顔を合わせることになる。で、あいさつをしたり、ひとことふたこと言葉を交わしたり。

 口を開かないで、軽く会釈するだけの省エネ型の人もいる。
 1人か2人だが、あいさつしても知らん顔している人もいる。フル省エネ型、もしくはヘソ曲がり型だが、後味はあまりよくない。

 そんな中で、比較的気持ちのいいアイサツを交わす住人がいる。まだ20代と思われるアメリカ人青年ふたりである。
 とにかく明るくて屈託がない。
 
 最初に声をかけてきたのも向こうからだった。
 彼らがこの集合住宅に引っ越してきた直後、中庭で最初に顔を合わせたとたん、顔からニコニコがこぼれ落ちそうな笑顔で挨拶した。

「コンニチハ。ワタシ、マイケル・ブラウン(仮名) トイイマス。キノウ コチラニヒッコシテ キマシタ。ドウゾ ヨロシク オネガイシマス」

 知り合いの日本人から口移しで教わったのだと思うが、言葉の並べ方は正確だけど、巻き舌のイントネーションがかなり波を打ち米語風だ。続いてもうひとりも挨拶したが、名前が変わっただけであとは判を押したよう。やや赤みをおびた白い頬のつるつる肌がまぶしい。
 
 その後、中庭で顔をあわすたびに、彼らの日本語はじょうずになった。
 どうも彼らは日中はずっと家にいて、夕方になるとふたりそろってどこかへ出かけていくようだ。それもおそろいの自転車に乗って・・・。頭にかぶるヘルメットもおそろい。服装もおそろいじゃないが似ている。しかし顔はカボチャとヘチマみたいだからから、兄弟ではなさそうだ。

 彼らはいったい、どういう仕事をしているのだろうと好奇心をもったが、あえて尋ねなかった。何とはなく失礼になるような気がしたからだ。何が失礼なのかはわし自身にもよく分からんのだけどね。
 
 2,3ヵ月ほど経った頃だった。
 ある日インターフォンが鳴って、例のふたりのアメリカ人青年が、液晶ディスプレイ画面のなかに並んで立っている。
 
 何の用かと玄関に出てみると、いつも以上にあふれ落ちそうな笑顔で言った。
「コンニチハ。アナタニトッテ トテモタイセツナ オハナシヲ シタイノデスガ、イマスコシ ジカンヲ イタダイテ イイデスカ?」
「ああ、いいですよ」
 と答えながらピンときた。
 あ、そうか、この人たちは、あっちのほうの勧誘に日本へきた人たちなんだなと。
 
 ピンポーンだった。彼らは、キリスト教のある宗派の布教員だった。
 しかしわしはべつだんキリスト教に興味はない。
 正直にそう話すと、ああ言えばこう言う、こう言えばああ言うといった風に、かなりしつこくねばった。

 だがわしも、どっかの首相みたいに、そう簡単に従順の意を表することはしなかった。
 でも相手のほうは期待をしていたかもしれない。この爺さんはそろそろ人生も終わりに近いから、死後のことが不安になっていて、あんがい簡単に話に乗ってくるかも・・・と。
 
 だがじつはわしは逆だ。
 いくら地獄に行きたくなくても、この年になってから「テンニ マシマス ワタシノ オトーサマ・・・」などといったバタ臭い “お経” を唱えるのはしんどい。ジンマシンが出そうな気がする。
 別に信じているわけじゃないけど、先祖伝来のナンマイダーとかホーレンゲッキョーでいくほうがラクだ・・・と。
 
 結局この青年たちは、憐れむような、哀しそうな顔を残して帰っていった。
 
 だが、その後中庭で顔を合わせても、くったくなく以前と全く変わらない笑顔で話しかけてくる。
「アレ、キョウハ オシャレシテ、ドコヘイキマスカ?」
 
 いやあ、やっぱり、若いってイイナア。

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