神さんもクセもの

 今回は、前回に書いた『カミさんはクセもの』からのスピンアウト記事である。(→であるから、まずこちらを読んでね)

 じつはわしは何であれ、計画的でないと落ち着かない性分だ。
 ところがカミさんは、計画的であれと言われると、人間であることをやめろと言われたみたいに、じつに情けなさそうな顔をする。

 その顔を見ていると、計画するのが下手とか苦手とかという前に、計画をつかさどる装置そのものがカミさんの体の中には存在していないのでないか、と疑いたくなる。
 ・・・などとグチャグチャ言っているよりも、具体的な例をひとつ詳しく書いてみる。
 
 現在はさすがにこれほど勢いはないが、50歳代前半あたりまでは、次のような派手な光景がちょくちょく見られた。
 
 たとえば友人宅のパーティへ、夕刻の○○時に招待されたとする。
 初めてのお宅へ電車で行くのであれば、わしならあらかじめ友人宅最寄り駅までの路線を調べ、電車の所要時間をチェックし、乗り継ぎ時間も考慮して何時に家を出るかを決める。そのためには何時頃に出かける準備を始めればよいかも、余裕をもって逆算する。手土産の用意もしておく。
 
 同様にカミさんが友人宅へ招かれたとしよう。彼女はわしがやるようなメンドーな準備はイッサイしない。
 そろそろ用意を始めなきゃまずいぞ・・・とわしには思える時刻になっても、ユー然と絵など描いていなさる。まるでパーティへ行くのは来世の話、とでも思っているかのように。
 
 わしは内心、気になってしかたがないのだが、せっついてもどういう結果になるかわかっているので、ガマンして何も言わない。
 
 しかしそうしているうちにも、どんどん時間は過ぎていく。ついにわしのしびれは切れてしまう。勇をふるい起こし、しかし遠慮ぎみに声をかける。
「そろそろ出かける仕度を始めたほうが、いいんじゃないの?」
 すると案の定、
「・・・そうね、いいわね」
 などと、百%うわの空のカラ返事が返ってくる。だいたい普段から、何かをしているとき(当時は多くは絵を描いていた)の集中度はかなり高い。
「このオタンコナスとマヌケキューリのあいの子。ブタのエサにして食わしちまうぞッ!」
 と耳のそばで怒鳴ったとしても、おそらく、
「・・・そうね、いいわね」
 と返ってくるだろう。
 
 わしにしても、遅れて泣きをみるのは自分ではないし、ましてや相手は大のおとななのだから・・・と言ったら「大のおとな」がイヤがりそうなお年なのだから、「泣くも笑うも当人の自覚と責任」といった達観をもって放っておけばいいのに、これがなかなかできないんデスねえ。
 ご苦労にもわざわざ傍に行って肩をゆすり、
「おい、もう△△時だよ。用意を始めないと、ホントに遅れるぞ!」
 と声を強くすると、カミさんはふり返って、親の仇でもにらむような目でにらむと、
「うるさいわねえ、わかってます!」
「わかってないよ。もう△△時なんだよ、△△時~ィ!」
「だからわかってるって言ってるでしょッ、仕事の邪魔をしないで!」
 ・・・とまで言われたのでは、いかにホトケの亭主とはいえ、心おだやかではない。というか、持ちまえの短気がむっくりカマ首をもたげ、
「オーケーッ。もうコンリンザイ邪魔はしない!」
 と、足音荒く背を向けるのだから、まあひとが見ていたらどう思いますかねえ。わしだっていいトシなんだから。
 
 彼女はふたたびイーゼルに向かうが、いったん途切れた集中力はもはや簡単には元に戻らないらしい。しかしそれで正気のほうが戻るのだろう、突然、はッとしたように時計を見て、
「エエーッ、もうこんな時間ッ?!」
 と目をむく。目をむくのは勝手だけど、「どうして教えてくれないのォ~ッ!」と言わんばかりの目でわしのほうを見られたんじゃ、やってられないよ、ったく。
 
 しかし実をいうと、わしにはこのあとに少々楽しみがあるの。
 時間に追われてキリキリ舞いする彼女の暗黒舞踏を、高みから見物できるからだ。「自業ジトク。チコクのシューズをはいて、キリキリ舞え、ドタバタ踊れ!」てなもんね。
 
 いやひょっとすると、舞踏というより、「時間が相手のカーレース」と言ったほうが実態に即しているかもしれん。
 彼女が正気に戻って、いま世の中にいかなる時間が進行中であるかに目覚めた瞬間から、わが家には、いきなりアクセルを目いっぱいに踏みこんだ中古車が爆音と噴煙をあげて走りまわりだすからである。
 
 たとえばこんなぐあい。
 クローゼットを全開にして、中の衣服をとっかえひっかえ猛スピードで体の上を通過させる。通過させつつ姿見の中をハッシとにらんで、すばやく五体各ポイントの点検をおこない、返す手で頭の上にさまざまな帽子をのっけたり取りのけたり・・・などといったレース展開のさなかに、とつぜん急ハンドルを切って、鏡に顔を押しつけんばかりにしながら化粧を始める。
 
 わしは、トバッチリやホコリを浴びないていどに離れた観覧席で、短い脚をゆったりと組み、缶ビールのプルタブを引っぱって、中身を口の中へ流しこみながらレース展開を楽しむ。
「ったく、ひでえハンドルさばきだな」
 とか、
「ふん、あいかわらずヘタなコーナリングだ」
 などと毒づきながらニヤニヤしているわけだ。
 
 と、いきなりそんなわしに声がかかる。
「お願い。今からだと、◇◇行きの電車は何時と何時があるか、ネットで調べてくれない?」
 とつぜん声色を変えたって、わしにだって意地ってものがある。
「そういうことは、遠慮させてもらいます。お仕事の邪魔になるといけませんから」
 彼女はゆがめて沈黙する。そこでわしはわざとのんびりとした声で、追い撃ちをかける。
「それより、持っていく手土産はちゃんと用意してあるんだよね、もちろん?」
 カミさんは情けなさそうな顔になり、
「途中で買うつもりなの・・・」
「あ、なるほど。・・・でも当てはあるんでしょ?」
「・・・」
 黙っているところをみると、アテもコテもないらしい。そこへさらにもう一発。
「当然、それを買う時間も、考えてあるよね?」
 返事のかわりに、なにやら悲壮な顔つきに変わるカミさんを見て、わしは胸のなかに祝杯をあげ、口のなかで祝言を叫ぶ。
「そ~らね、言わぬこっちゃない。カンパイ!」と。
 
 ・・・と、まあそういった光景が家庭内レース場に展開するわけだ。ま、少々・・・いやだいぶ誇張してあるけどね。
 
 ともあれわしはそうした全レースを、ロイヤルボックスから観覧している気分で楽しむ。愉快犯のひそかな愉しみもかくやありなむ、といったヨロコビを味わいながら。
 
 しかし、当記事のタイトル「神さん(カミさんじゃないヨ)もクセもの」が露わになるのは、じつはこの後である。しかし今回はもうかなり長くなってしまったので、次回へまわします。
 

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