トンビとカラス

偏見と差別

 わしらがいま住んでいる町は海辺のせいか、トンビが棲んでいる。

 生まれ育った田舎にはいたが、19歳で東京に出てきて以来、昨年この地へ引っ越してくるまで、トンビの姿を見ることがなかった。
 
 それだけに、空の高いところをゆったりと旋回している鳥影をポカンと口をあけて眺めたり、ピーヒョロロという鳴き声に足を止めてぼんやり耳を傾けたりするのが、楽しい。
 
 もちろんカラスもいる。数からいえばトンビにまさる。図々しさもまさるが・・・。
 
 わしはカラスにあまり親しみを覚えない。おそらく多くの人も同じだと思う。人間の生活圏のなかに断りもなく入ってきて、勝手なふるまいに及ぶことが多いからだろう。
 
 この間もベランダの物干し竿にとまって、部屋のなかを覗きこんだ厚かましいヤツがいた。何かオモシロイことをやってわけでもないのにサ。
 
 また、(彼らの自己責任ではないが)全身が黒いということでもカラスは損をしている。あの姿を見ると、よく気が利く中年の喪服女を連想する。
 顔も決して、カワイイ! キュンとなる! ってタイプじゃないないし。
 
 とどめをさすのは声だ。小鳥の鳴き声のような、ウルオイというモノがまったくない。押しつけがましさだけが耳に残る。
 あの声を聞くとなぜか気分が明るくなる、と言う人はあまり知らない。
 
 その上、ときおり声の質や調子が変わる。のどの奥の、のどチンコを震わせているような低いガラガラ声を出す。おそらく仲間に何かの意味を伝えているのだろうが、わしには人間をバカにしているように聞こえてならない。
 
 そうカミさんに話すと、それはあんたがヘソ曲がりだからだ、と返ってきた。
 そう言われれば確かにそうかもしれない。ひとを見下してひそかに喜ぶような動物は、人間以外に存在しないからね。
 
 その点トンビは違う。どこか高邁だ。たいてい空の高いところを飛んでいる。上昇気流に乗り、翼を動かさず青空に悠々と旋回して、人間の生活圏にほとんど近づかない。好感がもてる。
 
 そのトンビをカラスが襲う。その光景を何度かみた。
 体はトンビのほうがひと回り大きいのだが、小さいほうのカラスから喧嘩をしかける。ただし仲間を組んで2、3羽で襲うことが多いようだ。
 1対1の場合もあるが、それでも最後に逃げるのはトンビのほう。
 カラスはよく回る頭を使って、なにか小ずるい手を弄するのだろう。
 ヤなやつだ。人間世界にもちょくちょくいるがネ。
 
 ところが先日、こうした私のイメージをくつがえすような映像をテレビで見た。
 灌木の陰に、やせた2匹の子猫が体を寄せ合ってピーピー鳴いていた。
 するとそこへ1匹のカラスどこからかエサを運んできて、子猫に与えたのだ。そういう行動を何度かくり返す映像が撮られていた。
 
 いやあ驚いた。そういうカラスのイメージは、わしの中にまったくなかったからねぇ。
 で、先入観を持っちゃあいけないなあ~、とつくづく思った。
 こうした固定観念が融通性を失わせて、偏見を生み、差別につながる。
 そういう意味では、わしのこれまでのカラスに対する態度は、一種の “鳥種差別” と言っていいかもしれないワイ。
 
 ・・・そう思って反省していたら、念を押すように、続いてこんな体験報告が目に入った。朝日新聞の去る4月23日の読者投稿欄である。
 
 投稿者の女性はある日、「バシャ」という鈍い音がしたので調べてみると、勝手口の近くに小柄なカラスが地面に落ちていた。まだ子どもで経験が浅く、目測を誤って軒先にぶつかったらしい。脳震盪でも起こしたのか立ち上がれない。
 
 この女性は家庭菜園で野菜を作っていて、ふだんカラスに畑を荒らされるものだから、うっぷん晴らしのつもりでほうきを持ち出した。
 
 すると、どこからか7~8羽のカラスが飛んできて、輪をつくって落ちた若いカラスを取り囲んだ。そしてカアー、カアーと鳴く。これってドジな若ガラスへの頑張れコール? カラスの絆?
 
 それを見て投稿者自身もいつの間にか、若いカラスを応援する気持ちになった。手を出さずに様子を見ていると、まもなく意識を取り戻して、ぶじ仲間といっしょに飛び立って行ったという。
 
 この話にはじつは後日談がある。
 数日後、家庭菜園の畑に、未開封のフランス製香水瓶が落ちていたという。
「これって、カラスの恩返し? ラッキー。大事に使っています。うそのような本当の話です」
 と書いて、彼女はこの投稿を結んでいる。
 
 長生きはしてみるもんだと、久しぶりに思ったよ。
 

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トンビとカラス” に対して 2 件のコメントがあります

  1. むらさき より:

    ほんまかいな♪ヽ(´▽`)/
    我が山奥には、モズ、ウグイス、キジなど野鳥ばかりだからそーんな賢い鳥はおりませんわよ(* ̄∇ ̄*)

    1. Hanboke-jiji より:

      賢いカラスの2例は、わしも自分の目で見たわけじゃない
      からねえ。
      子猫にエサをやったのはテレビ、ドジな若ガラスを囲んで
      助けたのは朝日新聞の投稿欄(4月23日朝刊)で知ったの。
      人間もピンからキリまでいろいろなのがいるように、
      カラスもピンキリでいろんなのがいるんじゃないのかねえ。

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