最後の砦

最後の砦

 わしは毎朝、起きたらすぐベランダに出て、体操と瞑想をする。

 体操は、わしの年齢でこれをやらないと、すぐに体の動きが鈍くなる。
 次いで硬くなり、放っとくと動かなくなる。
 やがて寝たきり。それは若い女に色目を使ったら睨み返されるのと同じくらい確かだ。場合によっては「エロ爺いッ!」というセリフ付きで。

 寝たきりになって、食うにも出すにも誰かの世話が必要となったら、どうするか。
 わしの性格では耐えられない。

 寝たきりになったらすぐ死ねるのならまだいい。
 が、神サンはそうこっちに都合よく動いてくれない。それほどお人よしじゃないよ、あのお方は。何年もベッドの上に生きたまま放っておかれることだってありうる。ヘビの生殺し。

 そうなると地獄だ。いやわしには地獄の五乗倍くらいキツイ。
 それだけは絶対にゴメン蒙りたい。その為になら何でもやる。

 ・・・というわけで、わしはしんどいけど朝起きたらかならず体操をやり、そのあと続けて瞑想をやる。
 
 瞑想をやるのも結局は同じ理由。 
 毎日1回これをやらないと、精神が際限なくたるんでくる。
 
 精神がたるむとどうなるか。
 生活がだらしなくなる。
 加齢と共に、生きものとしてのエネルギーは落ちてくるから、放っておけば全てがどうでもよくなる。やることなすことがいい加減になる。投げやり。
 ま、ひと言でいえば、生きものとしてのタガがゆるむの。
 
 タガがゆるんだ状態で生きていても、楽しくも嬉しくもない。
 そんな状態で生きていてもしょうがない。
 
 その上、精神がゆるむと肉体もゆるむ。
 精神と肉体の連動。どういうメカニズムか分からんが、体験的にこの連動が強固であることは間違いない。

 たとえば食べものを口に入れても、その入れたものの一部が許可なく口からこぼれ落ちる。出口も同じ。出るべきじゃないときに勝手に出てきたりする。
 情けない。そういうのだけは何としても避けたい。
 
 で、そうなる大元締めの精神のたるみ/ゆるみを防ぐために瞑想をするのだ。
 背筋を伸ばし、呼吸を整え、呪文を唱えて、精神のタガを引き締める。

 現実にどれだけ効くのか分からんが、まあやらんよりはまし。
 実際、つい怠けてしばらくやらないでいると、どんどん精神がたるんできて、生活が投げやりになるのが分かる。そのうち、

 1日の大半を安楽いすに座ったままで過ごす。
 目がガラス玉のようになって動かなくなる。
 舌を抜かれたように口を利かなくなる。
 それでいて唇は死んだ貝のように半開きのまま。
 ま、限りなく屍に近い腐敗途上中の人間・・・って感じになってくる。
 いくらなんでもそうはなりたくない。
 
 ・・・とまあそういうわけで、体操と瞑想、毎朝やっとるわけだ。

 これはまあ、いうならわしの “最後の砦” だね。
 この砦から逃げ出したら、まちがいなく老残の坂道を転げ落ちる。
 それは、若い娘の尻を撫でたら叩きのめされるのと同じくらい確かだ。
「死にぞこない!」というセリフ付きでね。
 
           (この話には付録がある。それは次回で)
 

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当ブログは週2回の更新(月曜と金曜)を原則にしております。いつなんどきすってんコロリンと転んで、あの世へ引っ越しすることになるかもわかりませんけど、ま、それまではね。

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