秋深し・・・

秋深し・・・

 ここに1枚の写真がある。
 冒頭に載せたのがそれ。

 もうだいぶ前に撮ったものだ。新しいカメラを買ってまもない頃で、人でも風景でも写したくてウズウズしていた時期だった。

 人を撮るといっても被写体は誰でもよかった。
 で、脚の短いのや頬のたるみをガマンすれば、モデル料や肖像権の心配のいらないカミさんが、ま、ひと言で言えばいちばん手軽だった。
「まだなの? 早くしてよ!」
 などと文句を言われながらシャッターを切った覚えがある。
「モデル料ゼロ」+「モンクもゼロ」というわけにはいかない。

 ともあれ時は秋のまっさかり、これぞ菊日和といった好日。
 ・・・つまり絶好の撮影日和というわけで、カミさんを口説いてカメラを首にぶら下げ、ロケ散歩に出たわけだ。

 ところが秋の日はつるべ落とし。たちまち陽の光が斜めになった。で、あわてて夕日のなかで撮った1枚がこれ・・・というわけ。

 ま、そんな成りゆきの写真なので、タイトルを「秋深し」と付けようとしたら、「隣は何処へゆく人ぞ」という言葉がつづいて口から出てきた。ごく自然に・・・。

 もちろん、芭蕉の例の俳句「秋深き隣は何をする人ぞ」があってのことだが、それなら「隣は何をグチる人ぞ」あるいは「隣は何を蹴飛ばす人ぞ」であってもいいわけだ。

 ではなぜ「隣は何処へゆく人ぞ」なのか。

 ・・・なんて、ヒマ老人よろしく言葉尻をひっつかんでこねくり回していますがね、べつだん文学上もしくは哲学上の難問を解こうってわけじゃない。

「隣」とは要するに、わしの「人生の隣を歩いている人」のことデス。
「秋も深まっているのに、この隣人(となりびと)はいったい何処へ行こうとしているのだろう?」
 というわけ。

 実をいうとこれは、わしがごく日常的に思っている(思わせられている)コトなの。それでこのときも、ふと口をついて出てきたってわけ。息を吸ったら吐くように。

 これまでに何度も書いているが、わが「隣人」は計画能力の欠落において一頭地を抜く女人だ。したがって将来・・・などという遠い先の話ではない、あす、あさって・・・というのでもまだ遠すぎる、2時間先、あるいは1時間先に彼女が何をしているかを予測するのは、金正恩将軍様が次にどんな手を打つかを予想するのと同じくらい難しい。
 そのためにわしはこれまでどのくらいマゴマゴしてきたことか。

 虚子の句に、
 
  茎右往左往菓子器のさくらんぼ
 
 というのがあるが、まあわしの後半生は、この菓子器の中のさくらんぼの茎みたいなものだ。実(み)を食べたあとは、ゴミ箱へ捨てられる運命にあるところまで似ている。 

 そういう背景を呑みこんだ上でもう一度、
 
  秋深し隣は何処へゆく人ぞ
 
 の一句を “観賞” してみていただきたい。なかなか深遠なる味わいがにじみ出てきますぞ。

 キーワードはやはり「秋深し」だろう。
 もちろん季節の秋に人生の秋をWらせるわけね。
 すると、なにやら影のうすい老いた人間の哀しい姿が、うすぼんやりと浮かび上がってきませんか?

 え、な~んにも? こりゃまた失礼。
 話題を変えたほうがよさそうですな。

 そこで一つ質問。
 その前に面倒でも、もう一度、冒頭の写真をご覧いただきたい。

 ここに写っているシルエットの被写体(どこかへ行こうとしている人)だが、この人物は向こうからこちらへ歩いてくるところを撮ったと思いますか? それとも、こちらから向こうへ歩いて行くところを撮ったと思いますか?

 どうです? 見ようによってどちらともとれません?
 たとえば、黒くつぶれている人物の顔が、こちらを向いているように見えるか、向こうを向いているように見えるか・・・。
 つまり同じ写真なのに、見る側の心の向け方しだいで、正反対に見える。
 
 こういうことは、日常生活にはあふれている。
 だとすれば、同じことなら特に理由がないかぎり、良い方にとったほうがいいに決まってる。
 にもかかわらず、人間はともすると悪いほうにとりがちだ。少なくともわしはその愚かな人間のひとりで、分っていながらなかなか直せない。

 早い話、ついさっきもやっちまった。
 自分を菓子器の中のさくらんぼの茎にたとえて、さくらんぼを食べたあとはゴミ箱へ捨てられる存在・・・みたいなことを書いた。
 
 でも視点をちょっとずらせば、さくらんぼの実を口に運ぶために多少とも役に立った、極めて些少ながらも必要とされる存在だった、この世に生まれてきた意味があった・・・と考えることだってできないわけではない。
 
 少なくともそう考えたほうが、単にゴミ箱行きの存在だと考えるより、生きるうえで多少とも力が出る。

 ・・・などと振り返ってみる時には、ちゃんと反省するんだけどねぇ。
 しばらくするとすぐ忘れ、また同じことをくり返す。

 ま、これに限らず、人生の秋にきてもまだ問題は山積デス。
 秋とともに悩みも深いデスわ。
 大した悩みじゃないデスけどね。

 

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