スマイル & フェイク・スマイル
最近のテレビでは、身近な動物の笑える映像をみせる番組が多い。
国民の大半が、だれでも手軽に動画を撮れるようになったからだろうネ。
となると、撮るのが自分の飼っているペットが多くなるのは分かる。アイしてる相手だし、手軽に撮影できるからサ。
で、うちの子こんなに可愛いのよ、こんな芸ができるのよ・・・と自慢したくなるのも分かる。
しかし、何度も見せられていると飽きてくる。
そのうち、うちのゴキくんこんなに素早いのよ、という動画が出てくるかもしれない。うちのノミちゃん、こんなに高く跳べるのよ、というのは、撮影に少々技術が要るかもしれないけど。
先日、その手の “激カワ動物番組” で、こんな犬を見た。
口の尖った小型犬だったが、この犬は、飼い主が「スマイル」と言うと笑うのである。
たまたまではない。飼い主の声がかかると必ず笑う。
半ば口を開け、口角を横にひろげて、人間でいえばホーレイ線が出るあたり(鼻から口にかけての両脇)にシワを作る。
たしかに一見、笑っているように、見えないことはない。
だがどこかおかしい。稲荷神社の境内に鎮座しているお狐様を、油揚げを餌にムリに笑わせればこんな顔をするのでは・・・という感じ。
あんまり楽しくはないし、カワイくもない。いやむしろちょっと気持ち悪い。
しかしその犬の動画を、わしはなんとなく他人事にできなかった。
わしは根が素直というか、人間の底が浅いというか、作り笑いがうまくできない。
どうしても、 “いまムリに笑ってます” という顔になる。
しかもそのことを意識するものだから、その意識が顔に加わる。
相手はたいてい不快な顔をする。当たり前だ。
ホンモノの笑顔はたしかに快い。笑顔を向けられて不機嫌になる人間はいない。つまり笑顔はどんな美辞麗句にもまさる、いわば最高のコミュニケーション・ツールだ。
それだけにいっそう、本物の笑顔ではなく、ウソの笑顔を向けられると誰だって不愉快になるのだろう。
そうと重々分かっていながら、わしにはできないのだ。 本物らしく見える嘘の笑顔が・・・。
そのためにこれまでの人生で、どれだけ損をした分からない。・・・と思う。
あるとき話のなりゆきから、この悩みをカミさんに洩らしたことがある。
するとカミさんは、「そんなことないわよ。けっこう本物らしい作り笑いをしてるわよ」と言った。
えっ、ホント? わし、考えすぎ?・・・と一度は喜んだが、よく考えてみると「本物らしい作り笑い」をしているというのだから、「フェイク・スマイル」であることは分かっているわけで、なんの慰めにもならない。
といっても、できないものはできない。
生きものには、どうガンバッテもできないものがあるのだ。
地上ではしなやかな身ごなしの猫も、ツバメのように空を飛べない。
地中を自在に動きまわるモグラも、リスのように木の枝の上を走れない。
それぞれに得意不得意、できるできないがある。
・・・そう自分に言い聞かせて慰撫するのだが、先日のテレビで笑う犬を見て、結局自分の処世術は犬レベルか・・・と改めてまた少し落ち込んだ。
いや、ひょっとすると犬のほうが上だ。
少なくともあの犬は、自分の作り笑いを “芸” に昇華させている。
そして飼い主を喜ばせ、テレビを通じて何百万もの人を楽しませている。
それ比べてわしは・・・。
当ブログは週2回の更新(月曜と金曜)を原則にしております。いつなんどきすってんコロリンと転んで、あの世へ引っ越しすることになるかもわかりませんけど、ま、それまではね。