シロクマ先生診療記(2)

入れ歯

 ついに上の歯がぜんぶ抜けてしまったので、飛びつきたいたいほど好きではない歯科医へ駆け込んだ経緯を、前回に書いた。今回はその続き。(前回はこちらから)

 前に住んでいた所には、信頼できる良い歯科医がいたのだけれど、一昨年に当地へ引っ越してきて、残念ながらその先生との縁が切れた。

 医師もそうだが、新たに良い歯科医をみつけるのは容易じゃない。
 電信柱や軒先に出されている看板は、駅周辺のみならず自宅近辺でもけっこう目につくが、どの医院がヤブでどの医院がヤブでないか、判断する手だてがない。
 ネットでクリックをくり返し、当地に来てから知り合った数少ない知人に尋ねて情報を求めたが、なかなか決め手がない。
 
 しっかりした選択理由がないなら、結局、どれを選んでも同じだ。
 とにかく “口内ADHD” をなんとかしなければ(→意味不明の方は前回を参照クダサイ)、食事ができない。
 で、結局、我が家に一番近いところに看板を出している歯科医の門をたたいた。
 要するに行き当たりばったり。運を天にまかせたわけだ。ウンの強い生まれではないので、危険な選択だったのだが・・・。
 
 案の定、診療台の上から覆いかぶさってわしの口をこじ開けたのは、雲をつくような大男だった。印象は日焼けしたシロクマ。
 正直いってあまり良い心証ではなかったが、引き返すには遅い。
 
 そもそも診療室に入ったときから、印象は良くなかった。
 入室時に「こんにちは」とあいさつしたのだが、助手の若い女性はちゃんと返事を返したのに、机に向かってなにか書いていた肝心の歯科医は、顔をあげてじろりとこちらを見ただけだ。
 
 歯科医だって人間だ。いろんな性格の人がいるワイ。愛想は悪くても、歯医者としての腕が確かなら結構、癒しを求めてきたわけじゃない・・・と自分に言い聞かせながら、案内された診療台に上がった。
 
 助手の女性が、失礼します、と言って型どおりエプロンを首に掛け、うがいをするようにと青い液体の入った紙コップを渡した。
 その助手の背に医者は、「義歯を出しておいてもらいなさい」と声をかけた。

 その声は、”日焼けしたシロクマ” には似つかわしくない優しげな声だった。
 横柄でイカツイ風体はしているが、心は意外に優しいのかもしれん・・・とわしは自分に都合のいい解釈をして何となくホッとしていると、当人が机を離れてノシノシやってきて、診療台の傍らに立った。
 
「よろしくお願いします」とわしはもういちど挨拶した。
 するとシロクマ先生はこんども、「あぁ」だか「うぅ」だか分からない短い声を、上から鼻水のように垂らしただけだ。そして、さっき外しておいたわしの上下の義歯を手に取って、表裏ひっくり返しながらしばらく見てから、ようやくまともな声を出した。
「今晩、食事しますか」
 声はまともだが、内容はあまりまともとは言えなかった。わしは、
「当たり前です。ちゃんと食事をしたいから来たんです!」
 と言ってやりたかったが、大人げないので簡単に、もちろんします、とだけ答えた。
「それじゃ今日は、とりあえず上の義歯にすこし手を加えて動かないようにし、食事ができるようにしておきましょう。本格的な治療は次回から・・・」

 こうして、この「日焼けシロクマ先生」との “闘い” が始まったのだった。本格的な話はセンセに倣って次回から・・・。
 

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当ブログは週2回の更新(月曜と金曜)を原則にしております。いつなんどきすってんコロリンと転んで、あの世へ引っ越しすることになるかもわかりませんけど、ま、それまではね。

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