新しい友だち

ベランダのスズメ

 わしは先日84歳になったが、この年になって、思いがけなく新しい友だちができた。
 ・・・といっても、茶飲み友だちとかいうんじゃないよ。
 
 じつはわしらは健康にいいというので、一時期、玄米メシを食べていた。
 だが、いつの間にかやめてしまった。お得意ミッカボーズの実践ネ。で、米びつの底に玄米が少々残った。
 
 捨てるのはもったいないし・・・と捨てずにいたら、ある時、ベランダの向こうの電線にスズメが2,2羽とまっているのが目に入った。
 そうだ、スズメに寄付しよう、と思った。
 べつに昔話「舌切り雀」を思い出して、スズメに恩を売っておこうと思ったわけじゃないヨ。
 
 以前にも書いたが、ベランダから4,5メートルほど先に電線が走っていて、そこにはときどきスズメやハトがきてとまる。
 だが、ベランダまでやってくることはない。じいさんばあさんがチンマリ、ときどき犬も食わないケンカをしたりして暮らしているだけだから、覗いてもべつに面白くもないと思ってるのだろう。
 
 ベランダの手すりはコンクリ製で、上部は10センチくらい幅があって平らになっている。
 ある朝、ベランダで体操したあと、その手すりの上に残った玄米を2,30粒ほど撒いておいた。
 そしてそのことはすっかり忘れていた。老人は忘れる作業は早いんだ。
 
 それから2時間ほど経ったころ、何げなくベランダへ目をやると、驚いたことに手すりの上にスズメが1羽来ていた。臆病で警戒心がつよく、ベランダにやって来たことなどそれまで1度もなかったスズメが・・・。
 
 驚いてから思い出した。あ、そうだ、朝、玄米を撒いておいたんだって・・・。
 それにしても、米粒のような小さなモノに、遠いところからすぐさま気がつくなんて、さすがモチはモチ屋だ。
 
 人間も同じだが、ツンとすましてるヤツは可愛げがないけど、すぐ間近にきて米粒をうれしげにつついているのを見ると、何となく可愛く見えた。それまでススメなど、道端に転がっている犬のフンと五十歩百歩だったんだけどね。
 
 そこでそれから毎朝、ベランダの手すりの上だけでなく、周辺の植木鉢などに玄米を撒いておくようにした。

 すると毎日かならずスズメがやって来るようになった。それも日を経るごとに数が増えた。スズメ界にも口コミみたいのがあるのかねぇ。あるんだろうねぇ、ピーチクパーチクって童謡にも歌われるくらいだから・・・。

 かくしてわが家のベランダは急に賑やかになった。
 しかしさすがに、わしやカミさんがベランダに出ているときは来ない。
 米が主食だった日本人は、稲に被害を与えるスズメは、長年害鳥として敵視してきた歴史があるからだろう。
 
 そうこうして2週間ほど経ったある日だった。
 ベランダに出した椅子に座ってメー想していた。
 来し方行く末に思いを馳せることくらい、わしにだってある。来し方と行く末がアンバランスだけど。
 
 で、瞑ソー中にふと近くにかすかな気配を感じて、目を開けた。
 驚いたことに、わずか1メートルほど先、もう少しで手が届きそうなくらい近い手すりの上に、1羽のスズメが来ていた。こんな間近に生のスズメを見たのは、わしは生まれて初めてだった。
 
 わしは固まったようにじっとしていたが、思わず一瞬まばたきした。
 とたんにスズメはパッと飛び立って逃げた。
 それまで、わしを置き物ぐらいに思っていたのだろう。それが目を動かしたので、初めて生の人間がいると気づいたのか。
 
 ところがである。
 それから何日かすると、椅子に座っているだけで、目をつむっていなくても、手すりにスズメがくるようになった。
 さすがに、調子にのって手を差しのべたり、椅子から立ち上がったりすると飛び立って逃げるが、そうでない限り逃げないで、チョコチョコ跳んだり、小首を傾げたり、手すりの端っこまできて下の方を覗き込んだりする。可愛い。
 
 そうして何日か経ってついに、ベランダで手足を動かして体操しているときでさえやって来るようになった。
 急に動作を変えると逃げるので、そのままさりげなく同じ体操を続けながらスズメの動きを見ていると、なんとなく楽しい。もっとも同じ体操を続けなくちゃならないので大変だが・・・。
 
 そのうち、手のひらから米粒をついばんだり、肩にとまって耳たぶを引っぱったりするようになったりして・・・。
 
 ・・・な~んて、年寄りは気楽でいいなって思ったでしょ。
 はい、気楽なときもありマス、やることないから・・・。
 

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当ブログは週2回の更新(月曜と金曜)を原則にしております。いつなんどきすってんコロリンと転んで、あの世へ引っ越しすることになるかもわかりませんけど、ま、それまではね。

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