警察官に護衛された(下)

オレオレ詐欺

 世の中には実際にやってみないことには分からないことが多い。
 取引銀行の口座を解約して、全額下ろそうとしたら、「少々面倒なことになりますが、よろしいですか」と言われた。
 面倒って何? わしの金だろ?・・・ってなるよね。
 ・・・ということで、前回にそれまでの経緯を書いたが、今回はそのつづき。(前回はこちらから)
 
 銀行の係員の説明は、だいたい次のようなものであった。
 近年、オレオレ電話による振り込め詐欺など、ボケた老人をカモにした特殊詐欺が世にバッコしていて、なかなか衰えを見せない。

 そこで当地の警察も取り締まりを強化し、いま重点的に取り組んでいるという。
 
 その対策の一つとして、金融機関からある一定金額以上の金を、ある一定年齢以上の高齢者が引き出したり他行へ振り込んだりすると、その金融機関は警察に連絡しなければならない。ま、早くいえば協力を要請されているわけだ。

 で、連絡を受けた警察は、そくざに警察官を現場に出動させるという。ボケた老人が詐欺に引っかからないようにという、ま、いわば親心・・・っていいますかね。
 
 わしが銀行から受け出す現金は、怖れ多くも “お上” に連絡するほどのものとは、とても思えない額だ。
 しかしまあ一応夫婦ふたりが、人生百年時代を生き抜くためにチビチビ蓄えた虎の子の全財産なので、残額は “ある一定金額” を超えていたらしい。

 そしてもちろん年齢も一定年齢を超えていた。
 つまりボケている可能性ありと、官が公に認定したわけだ。当ブログでも半ボケを掲げているわしとしては、文句を言える立場にはない。
 
 ・・・というわけで、ほぼ20~30分ほど待たされて警官がやってきた。
 2人づれである。20代後半くらいの若いのと、50代前後のベテラン。
 刑事ドラマでよく出るく2人組というのは、ドラマだけの約束ゴトではないらしい。

 銀行の、広くない四方壁の応接室で警官ふたりと対面して尋問・・・じゃなかった質問を受けた。
 まず住所、氏名、職業、年齢など。
 それからやおら本筋に入った。預金はなぜ下ろすのか、それも1度に全額下ろすのはどうしてか、下ろした金はすぐ使うのか、使う計画はあるのか・・・などとということを、けっこうしつこく訊かれた。
 
 質問するのは主にベテランの方で、隣にすわった若い方が、わしの答えをちくいち手帳にメモした。
 
 わしはいい年をしていながら、未だ警察の取調室に連れ込まれた経験はない。が、ドラマで見る取調室にごく近かった。少なくとも気分的には・・・。
 つまり、何か悪いことをして逮捕された容疑者みたいな気分。
 
 考えてみれば当然かもしれない。警察官にしてみれば、調べる対象が犯罪者か犯罪の被害者かの違いだけで、仕事の内容にそう大きな違いはないのだ。
 
 もちろんさすがに、犯罪容疑者に対するような威圧的な態度ではなかった。だがどこかで常に何かを疑っているような、あるいは不審な何かを嗅ぎとろうとしているような色が、彼らの目の底のほうで動いている気がした。
 
 途中で2度ほど、若いほうが部屋の隅へいって、ひそひそとどこかへ電話を掛けた。
 当方が答えたことの内容の確認を取っているらしい。いわゆる刑事ドラマでいう “ウラを取る”ってやつデスかね。
 
 時間にすれば15分か20分ほどで “取調べ” は終った。
 わしらには子も孫もいないので、タチの悪い女に騙されて金を使いこんだ、今日じゅうに何とかしなければ会社をクビになる・・・などといった電話がかかってくる可能性は、まずないと見たようだ。あるわけないよね。
 ぶじ解放された。
 
 ただ、受け出した現金はどうするのか、家へ持って帰るのかと訊かれたので、ここから歩いて5,6分ほどのところに別の銀行のATMがあるので、そこへ行って入金すると答えたら、ではそこまで本官たちもご一緒しますと言って、実際についてきた。
 
 制服の警察官ふたりに護衛されて街中を歩くというのは、何ともいえない奇妙な気分だった。
 こんな経験は、電車の中でガソリン撒いて火でもつけない限り、生涯もう2度とないだろう。
 せっかくだから、皇族にでもなった気分で歩いてみようとしたが、ムリだった。 

 かくして人生初の “警察官に護衛された” 体験は終わった。
 ゴクロウサン。(自分たちへ言ったんじゃないよ)
 

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