歌を忘れた老カナリア(2)

童謡クラブ

 脳梗塞の後遺症で、滑舌が油ぎれになったようにギクシャクする。
 油を差して舌の回りをスムーズにするには、合唱サークルに参加するのも一法だと言語聴覚士に教えてもらって、とある童謡サークルに電話をした。そこまで前回に書いて、今回はその続きである。(前回はこちらから)
 
 電話の問い合わせに応答したのは、品のいい感じの高齢男性の声だった。
 その人が会を主宰する人物らしかった。見学参加にOKをもらったので、早速次の例会にカミさんと出かけてみた。
 
 会場は近くの小学校の音楽教室。その小学校へ行くのは、むろん初めてだ。
 曇り空の、冬の土曜日の午後の小学校は、人けがなかった。
 音楽教室はどの辺りにあるのか、大きな校舎のどこから入っていけばいいか、カイモクわからない。
 校庭の隅の水飲み場に、2,3人の体操着の子どもがいた。近寄って尋ねてみると、その子たちはこの小学校の生徒たちではなかった。よその学校へ来て、何をしているのだろう?
 
 どうしたものかとウロウロしていると、わしらよりひと回り若い年配の夫婦が校庭に入ってきた。童謡会のメンバーかもしれないと尋ねてみると、そうだというのでその人たちのお尻についていって、なんとか目的の音楽教室にたどりついた。
 
 小学校の校舎に入ってのは数十年ぶりだった。ひょっとすると自分の小学校の卒業以来かもしれない。
 思ったより汚かった。この半世紀に世の中はとてつない進歩をしたので(とりわけ物質面は)、もっときれいかと思っていたら、わしの小学生のときの校舎のほうがきれいだった。・・・ような気がした。
 
 音楽教室にはピアノが置いてあって、すでに30人くらいの人が集まっていた。
 ほとんどが老人だ。一番若く見える人で50代後半くらい。それも女性が8~9割。余談だが、こういう集まりに(年をとった)男性が顔を見せることはほとんどない。だから早くボケる。
 教室の入り口で童謡集の分厚いブックを渡される。
 
 やがて70代の男性と60代の女性がいっしょにやってきた。
 女性はピアノの前に座り、男性は教壇に立って話を始めた。童謡とは関係のない世間話だ。さかんに下手なダジャレを入れて笑わせようとする。歌を唄うまえの口ほぐしのつもり?
 
 10~15分ほど “前戯” をして本番に入った。
 先ほど渡された童謡集ブックのページ数を言い、そのページを開いてそこに載っている童謡を、ピアノ伴奏と先生の歌声に合わせてみんなで唄うのである。先生の声は年にしてはいい声で、歌も上手だった。元プロだったとか。
 
 ただしそれだけだった。
 唄うに際しての注意点とか、その歌にまつわるエピソードとかの話はない。参加者に、その歌についての想い出話をさせることもない。ただ唄うだけ。一つの歌が終ったら別のページに移り、次にまた別のページへ飛ぶ。そのくりかえし。
 
 先に触れたように、集まっているのは老人ばかりである。
 日々の生活で大きな声を出す機会の少ない連中だ。それでは健康上にも精神生活にも好ましくないので、声を出す機会を与えてやろうというのが、この会の主旨なのだろう。

 その意味では役目は達している。が、それにしてももう少し工夫というか、ひねりというか、楽しく大声を出すうえでの味付けがあってもいいではないか。ただ集まって大声を出すだけなら、初夏の田んぼの蛙だってやっている。
 
 いや田んぼの蛙で上等、この会はそれ以上のものは求めない、というのが主宰者の意図であれば、当方があれこれ言うのはよけいなお節介だろう。

 ただひとつ、わしの個人的理由で不都合なこがあった。当方の音域が想像以上に狭くなっていたことが理由だ。
 で、みんなの音階のキーに合わせられない。仕方なく自分に可能なキーで唄う。だが大声を出すと他人に迷惑をかけるので、声を抑える。結果として大声を出すために来たのに、その目的が達せられない。
 
 不都合はそれだけではすまなかった。
 どんな歌でもメロディーには高低がある。唄いはじめは自分に可能なキーで始めても、途中からそのキーでは高すぎて(あるいは低すぎて)声が出せなくなる。仕方なくキーを変える。つまり一曲のなかで、キーが蛙の跳躍曲線のようにやたら上がったり下がったりする。いくら声を抑えていても、隣のひとが変な顔をして見る。だいいち唄っている本人も面白くない。つい口をつぐんでしまう。
 声を出せないわしが「童謡を歌う会」に参加するのは、ニワトリが伝書バトのレースに参加するようなものだ。

 世の中が思うようにはいかないのは、自分の顔を見るように分かっているが、またしてもその顔におデコをぶっつけてザセツした。

「童謡を唄う会」への参加は1回で終わった。
 オツカレさん。
 ・・・という以外にないか。

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