歌を忘れた老カナリヤ(1)

歌を忘れたカナリア

 前回、人生には思ってもみなかったことが起きるという話を書いたが、女房が80歳近くになって女子プロレスを始めた(先日の記事)というほどではないけれど、わし自身にも思ってもみなかったことが起きた。(先日の記事『79歳のカミさんが、女子プロレス?』はこちら
 
 何度も書いているが、わしは1年ほど前に軽い脳梗塞を患った。
 いまは、体の半身不随はほぼ完全になくなったが、発語機能に少々後遺症が残った。要するにロレツが以前のように正常に回らないのだ。チコちゃんは言うに及ばず、ちょっとおませな5歳の女の子相手なら、口喧嘩をするとおそらく負ける。

 もっとも、仕事などで相手を説得する必要はない年齢だし、いまさら異性を口説くつもりもないから、ロレツが少々ヨロケていても大して痛痒は感じない。
 
 しかし、日常生活に不便が生じるのは困る。
 日々の生活で話をする相手は主にカミさんであるが、彼女がわしの話をちゃんと聞き取れないことが多くなった。
 
 必要があって人様に話をするときは、ちゃんと意識して話すから声を大きくし、メリハリもつける。だから話が通じないことはまずない。

 しかし日常カミさんに話すときは、四六時中意識的に話したりはしない。そんなこたァやってられない。ほとんどは無意識的にしゃべるから、しぜん、機嫌のわるいロレツが無遠慮に入り込んでくる。
 なんども聞き返されるのは想像以上に面倒なものだ。
 
 ちょっと話が変わる。
 初めて知ったが、歯を悪くして歯科医を訪ねてくる高齢の患者のなかには、わし同様に脳梗塞でロレツの機嫌をそこねている者が多いという。
 つまりシレツ(歯列)とロレツは、仲の良い悪友みたいなものらしい。単に音が似てるだけでなく・・・。

 で、完ぺき主義の傾向のある我がかかりつけ歯科医は、言語聴覚士と業務契約している。
 
 わしも歯の治療に行ったときに、せっかくだから言語聴覚士のリハビリも受ける。
 40歳前後の感じのいい女性である。
 面白くもないだろうが、適当におだてて気分を良くしてくれる。プロなのだ。

 その言語聴覚士に、日常女房に聞き返されることが多くて煩わしい、何かいい対策はなのか、と相談してみた。。
 
 すると彼女は言った。
 話を聞き取ってもらえない理由のひとつには、口をきちんと開けないで話するから・・・ということが大きい、と。

 しかしふだん、家族など気安い間柄で話すときは、いつもそんな演説するような話し方はしない。

 常時きちんと口を開けて喋るようにするには、それなりの練習が必要である。それが常態になるまでくり返し訓練して習慣づける。
 
 「生麦生米生卵」に代表されるような早口言葉で口を慣らすのもその一つだが、てっとり早いけれど長続きしない。すぐ飽きてやらなくなる。

 そこで推奨するのがどこかの合唱サークルに入ることだ。週1回2時間くらいでもやれば、意外と口を大きく開けられるようになる。
 
 もちろんこれだって続けることが必要だ。2ヵ月や3ヵ月ではダメ。最低でも1年は続ける。すると口辺の筋肉が慣れてくる。ふだん話すときも口を大きく開けるクセがつく。とくべつ意識しなくても・・・。
 
 サークルに入れば、週1回の訓練時間が向こうからやってくる。特別イヤな理由でもなければ続けられる。ウンが良ければ気の合ったガールフレンド(・・・といっても同じ年回りの婆さんだけどネ)だって絶対できないことはないかもしれない。続けられやすくなる。
 
 カラオケの趣味のないわしは、歌をうたうのは小中学校で校歌を歌って以来だ。が、その気になればやれるかもしれない・・・と何となく行く気になったていら、言語聴覚士のお姉さんが童謡サークルのひとつを紹介してくれた。

 電話してみると、まず見学に来て下さいと言う。
 で、次の例会に、女房とふたりで出かけて行った。
 考えていなかった問題が生じて、思っていたところと違う結果になったが、その経過を次回に書いてみる。
 

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