WBCとコトダマ

WBC

 去る3月半ば、プロ野球の世界一を決めるWBC(World Baseball Classic)シリーズが行なわれ、日本中が盛り上がった。
 
 その盛り上がりようは尋常ではなかった。
 さながら大盛りカレーの皿の上に大盛りカツ丼を載せて、その上にビッグマックをトッピングしたようだった。
 
 シリーズ中はいうに及ばず、終ってからも1週間はどのテレビへ回してもWBCがらみの番組をやっていた。多くの民放局は、その後も数週間ほどワイドショーで毎日WBCもしくは大谷翔平モノを扱いつづけ、いまだにMBL関連コーナーを続けているところもある。

 さながら大谷翔平選手はヒーローというにとどまらず、昨今さまざまな面で沈みみがちな日本の救世主か神様のようだった。(神様と言えば、昨年 “村神様” 呼ばれた村上宗隆選手は、シリーズ中大半は不調だったものの、最後に適時打とホームランを放って “神” が息を吹き返したのも、カッコーの話題だった)。
 
 だがわしは、ちょっと別のところに興味を持った。
 日本代表チームを率いた栗山英樹監督のある部分についてである。

 もちろん栗山監督についても、マスコミは大騒ぎした。
 彼に関しては、選手を信頼して、その信頼のうえに各自の自主性を徹底的に尊重する・・・という采配を賞賛するものが話の中心だった。何かというと他人に責任を押しつけて逃げたがる日本人の弱点を、自省する面につなげた論調である。

 だがわしはそれとはちょっと違ったところに目が行った。
 栗山氏は早くから・・・監督になったごく初期の頃から、「世界一を目指す」と言っていたことについてである。

 シリーズが近づくにつれて彼のその手の発言は頻度を増し、聞く耳にとってはちょっとうるさいほどだった。また、「絶対に世界一になる」「世界一以外は頭にない」などと、語調もますます強度を強めていった。
 
 わしのように精神がか弱い人間は、「そんなこと言っちゃっていいの?」とどこか不安だった。
 なにしろ「世界が相手」の話だ。そして、世の中はそう甘いものではない。責任ある立場にいる者がそういう言い方をすると、背中に載っかる荷物が重くなりすぎて潰れちゃうんじゃないの? と思ったのである。
 
 でもまあ他人が言っていることだし(つまりわしが責任を問われるわけではないし)、高みの見物で気楽に見ていたら、じっさいにシリーズが始まってみると、ご承知のように日本はどんどん勝ち進んで行ったのである。

 WBCシリーズは今回が第5回目だが、これまでの回のように、途中で取りこぼすようなこともなく、まさに栗山監督の言葉を地で行くような感じで展開していったのである。
 リーグ戦だった第一次ラウンドと準々決勝では、強敵韓国を含めて全てに大差をつけての勝利だった。

 わしは内心、このころからすでにある思いを持ち始めた。
 実力がどんなにあっても、世界を勝ち抜いてきた相手に5戦連続して大差で勝ち続けるなんてことは、なかなか出来ることではないからだ。
 
 二次ラウンドの準決勝戦と決勝戦に至っては、その試合展開を見ながら、まさに何か目に見えない力が働いていると思わずにいられなかった。
 
 準決勝のメキシコ戦は九回表まで5対4で負けていて、どん詰まりの九回裏にきて先頭打者大谷が2塁打を放ち、次打者吉田がフォアボールで出塁して走者1塁2塁になって、そこへ、それまでずっと三振と凡打の山を築ていた “村神” がフェンス直撃の適時打を放って、逆転勝利したのである。
 
 決勝戦では、前回の優勝国であり、今回も優勝候補一位であったアメリカと対戦し、終盤まで勝っていた日本が8回にアメリカにホームランを打たれてスコア差1点までに迫られたが、九回にヒーロー大谷がクローザーとして登場し、最後のバッターに大リーガーで3度MVPをとったマイク・トラウトを打席に向かえて、ボールカウント3ボール2ストライクから、最後の最後の一球で大谷が目の覚めるようなスライダーを投じて三振に打ち取って日本が勝利したのである。
 
 こんなのは、最も低俗で安直なマンガや劇画でさえ遠慮するストーリー展開である。作りもの過ぎてアホ臭くてまともに付き合えない。
 
 そんな劇画が現実に目の前で繰り広げられるのを見てわしが思ったのは、さっきもちょっと触れたが、この世の裏に隠されている厳然たる目に見えない力である。
 ひと言でいえば「言霊」。

 フランスの作家サン=テグジュペリが『星の王子さま』に書いた有名な言葉に「大切なものは目に見えない」というのがあるが、コトダマもその一つであろう。
 
 信じるか信じないかは各人の自由だけど・・・。
 

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