白内障の手術をしたら・・・(後日談)
老人の日々の暮らしは、ウンザリするほど単調で退屈だ。新年早々パッとしない話だけどネ。
だがそんな老人生活にも、一夜明けたら別世界・・・なんてことも全くないわけではない。
前回、カミさんが白内障の手術をしたら、別世界のように風景が鮮やかにキレイに見える・・・と感動の声をあげたという話を書いたが、それにもう一つ付け加えマス。(前回はこちら)
前回は片目だけの手術だった。
その目には遠目用のレンズを入れたので、鮮明に見えるのはじつは遠くの景色だけだった。
が、その後、もう一方の目も手術をして、こっちには近目(ちかめ)用のレンズを入れたので、近くのものもよく見えるようになった。
前回にもちょっと触れたが、近目のレンズを入れたとき、自分の80歳の顔や手が、どのように別人のごとくキレイに見えるか・・・の感想が聞けるだろうと楽しみにしていた。
だが残念ながら、期待どおりの反応は見られなかった。
一段と鮮やかになったはずのシミやシワについては、カミさんは一言も見解を述べなかったのである。
なぜか。
じつはよく分からない。
80歳になっても一応女なんだから、おのれのシミやシワに関心がないはずはないと思うのだが、そこに言及はなく、かわりに全く予想していなかったことを口にしたのである。
「目がよく見えるようになったら、頭も以前よりクリアになったような気がする」と宣ったのだ。「隣の家の人の咳払いも前よりクリアに聞こえるわ」
最初は冗談かと思った。
そう思って顔を見直したのだが、冗談の顔ではない。
マジメな顔でジョークを言うことは誰でもままあるので、そのテの対応かと思ってなおしばらく様子を見たのだが、どうも本気で言っているようだった。
認知症がまた少し進んだか・・・と不安になった。
「冗談としては面白いけど、目がよくなったら頭もよくなった・・・なんてハナシ聞いたことがないよ」
あまり強く言って機嫌を損ねられたくないので、バカにした感じにならないよう柔らかく言ったのだけど、カミさんはますます本気の顔であとへ引かなかった。
「目がよく見えないと、何を見てもボーッと見過ごてしまって、頭へ入ってこないの。だから最初からいい加減に見る・・・というかハナからよく見ないのよね。
でも目がよく見えると、それなりに感じたり思ったりするから、そのぶん頭に刺激がいくの。毎日のことだから違いは大きいはずよ」
言われてみてナルホドと思った。
確かにそうかもしれない。認知症の頭で言うにしてはまともだ。筋が通っている。
そもそもカミさんの認知症は、短期記憶力の喪失が主で、記憶が関わらない目の前に見える事柄の判断は、ほぼちゃんとしている。
・・・で、反論しないで、素直にカミさんの言うことを認めて引き下がった。
それから2,3日後のことだった。新聞にある記事が載った。
カミさんが手を廻したのではないか、と思われるような記事だった。
名のある大学の医学部教授が、家庭欄のコラムに書いていたのである。
加齢等で視力が減退して見えづらくなると、とうぜん脳への視覚刺激が減る。脳へのインプットは、量的にも視覚からのものが大きいので、視覚に障害が生じると、高齢者の場合は認知症への大きな誘因になるし、すでに認知症の人は症状をいっそう進行させる、と・・・。
わしはカミさんより年齢はだいぶ上だが、まだ認知症の魔手には掴まっていないと自認していたのだけれど、今回は、介護レベル「3」公認のカミさんに完全に一本取られた。
油断大敵!
最近はとくにわしも、言いたい言葉がスムーズに口から出てこないことが多くなったしなァ。
やれやれだなァ、正月から・・・。
当ブログは週1回の更新(金曜)を原則にしております。いつなんどきすってんコロリンと転んで、あの世へ引っ越しすることになるかもわかりませんけど、ま、それまではね。