ケンカの上積み

桐のタンス

 先日、買い物に行く途中、すぐ目の前を老夫婦が並んで歩いていた。
 70代後半。わしら夫婦より7,8歳くらい年下か。

 当方との間には5,6メートルくらい離れていたが、彼らの話声が急に大きくなったので、自然に耳に入ってきた。べつに聞き耳を立てたわけではない。
 
「お父さんはいつも、わたしの話をいい加減にしか聞いてないのね」
「そんなことないよ。ちゃんと聞いてる」
「嘘ばっかり、いつも生返事ばかりしてるわ」
「そんなことないって」
「じゃ、今わたし、何の話をした?」
「桐のタンスの話だろ」
「桐のタンスの、どんな話?」
「・・・・」
 夫はそこで詰まった。言葉が出てこないらしい。

 わしらが歩いていた道ぞいの家の門口に、大きな桐のタンスが置かれていた。粗大ゴミとして出されたものらしいが、そんなに壊れた感じも汚れた風にも見えない。まだ充分に使えそうな高級そうな箪笥である。

 それを見た前を歩いている老夫婦の奥さんが、こんな立派なものを捨ててしまうなんてもったいない・・・とか何とか言ったらしい。
 が、亭主は上の空で聞いていて、ちゃんとした返事をしなかったようだ。
 
 どこにでもありそうな、ま、ありふれた夫婦のやりとりだが、くだんの夫婦は、これをきっかけに本格的な口喧嘩を始めてしまった。
 
 まあこれも夫婦にはよくあることで、ことさら取り立てる話でもないのだけれど、すぐ後ろを歩いていたわしらは、何となく具合の悪い感じになった。

 そこで歩調を少しゆるめ、たまたま目についた椿の木の下で足を止めて、意味もない話を始めた。「真冬でも、こんなに盛大に花を咲かせる木があるんだねぇ。植物もさまざまだなァ・・・」とか何とか。
 
 するとカミさんが、週2回通っているデイサービスの庭にある、大きな椿の木の話を始めた。
 特別わしには興味のない話で、つい上の空になって、頭の中では別のことを考えていた。

 さっきの桐箪笥を粗大ゴミに出したのは、年老いた男ではないだろうか。カミさんが死んで、着物を入れる桐タンスなど不要になった。が、わしら同様子供がいないので、譲る者もいない・・・。

 わしだったら、リサイクル屋に売る算段くらいはするだろうが、ま、金にアクセクしないんだろう。あるいは女房に先に逝かれて、とにかく面倒なことは何もしたくないのかもしれない。
 
 ・・・なんてことを考えていたら、カミさんが不機嫌そうに唐突に口をつぐんだのである。
 それでわしはようやく気づいた。前の夫婦とまったく同じことをやってしまったことを・・・。

 彼らはそれでケンカを始めたが、わしら夫婦までそれをきっかけに全く同じケンカを始めたのでは、アホの上にコッケイを積み上げるようなものだ。これは早いとこ謝まっとくにかぎる・・・。
「ごめん。今ちゃんと聞いてなかった・・・」
 カミさんはしばらく不機嫌そうに黙っていてから、
「男の人って、みんな同じね」
 
 さいわいそれ以上には発展せず、なんとかケンカの上積みだけはしないですんだ。

 それにしても、ナニやってるんだろうねぇ、いい年をして・・・。
 

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ケンカの上積み” に対して 2 件のコメントがあります

  1. 色呆け爺 より:

    私共もご同様」でございます。
    身につまされる様なお話で、家内の叱られない様 注意致します。

    1. Hanboke-jiji より:

      どこの夫婦も同じようなことをやってると知って
      なんとなくホッとします。
      ・・・というのは気休めにすぎないんですけどね。それでも・・・。

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