黒まゆげ爺さん
先日、図書館でヘンな爺さんを見た。
斜め前にすわっていて、メガネなしで大型の写真集に目を落としている。
年のころは70歳くらいだろうか。一見どこにでもいるふつうの爺さんだ。
では、どこがヘンなのか。
まゆ毛。
体つきは老人のものだし、顔も年相応にシワが寄ったり、シミができたりしている。頭髪や髭は白に近いごま塩だ。
それなのにまゆ毛だけが黒々としている。
黒いだけではない。形もしっかりと太く、長く、堂々としている。いうなら20代の若者のまゆだ。まゆ毛だけ取りだして見たら・・・の話だけど。
たとえて言うなら、顔ぜんたいはウシだけど、耳だけがロバの耳・・・といった感じ。多少飛躍があるが、とにかく見る者をみょうに不安定な気持ちにさせる顔だ、ということが言いたい。
丑年生まれなのに野次馬のケの多いわしは、その爺さんのほうを見ずにいられなかった。あまり間をおかずチラチラ見ていた。
それで視線を感じたのだろう、黒まゆ毛爺さんはふいにその黒いまゆを上げた。
目が合った。慌てて目をそらした。
しばらくは膝のうえの本に視線を落としていたのだが、数分もするとまたまぶたがムズムズしてきた。けんめいにガマンしたのだが、ガマンの糸が切れてまた目をあげてしまった。するとむこうも同時に目をあげた。当然だがどことなく怒ったような顔をしている。
これ以上ここにいるとヤバイ。わしはさりげなく席を立った。
だが頭のなかの意識は、それからも爺さんのまゆ毛から離れない。
雑誌コーナーへ行き、適当に雑誌のページをめくりながら、頭のなかでは別のことを考えていた。もちろん黒まゆ毛爺さんのことだ。
なぜあの人のまゆ毛はそこだけ黒黒としているのだろうかと。
まず考えたのが、2018.01.15の記事で触れた”エクステ”だ。(『「鼻毛エクステ」って変なものが出てきたぞ』はこちら)
あの爺さんは「まゆ毛エクステ」、つまり「つけまゆ毛」をしているではないのか? ということをまず考えた。
しかし、すぐ反対意見が出た。
70の爺さんがわざわざ「つけまゆ毛」などするか?
しないとも限らんぞ。若い女が「つけ鼻毛」をする時代なんだから。
いや、人工の鼻毛などつけたがるのは、要するに若いからだ。アラ古希の爺さんとはエネルギー量がちがう。そこを無視した議論は土台がゼー弱だ。
違うな。そういうのを常識的発想、つまり俗論というんだ。80歳でエベレストのてっぺんに登った男がいるのを忘れたか。
・・・などと甲論乙駁してすっきりと着地しない。
その次に思い浮かんだのは、単純に「染めているのではないか」という考えだ。
しかし、何のためにだ? とまた反論が出た。
まゆ毛以外の毛という毛は、すべて雑草さながら自然のまま放置してあるんだぞ。(・・・といってもワキ毛やイン毛は見てないので保障のかぎりではない)
つまり、なにゆえに、まゆ毛だけあんなにも黒々と染めなければならないのか? 何か特別の理由でもあってのことなのか?
・・・という疑問。
ふと思った。
ひょっとしてまゆ毛フェチ?
この世は広い。いわゆるフェチストにもいろんな奴がいるだろう。
しかし、 “まゆ毛フェチ” なんてあんまり聞いたことないなァ。
だが、仮にもし彼がその、世にも珍しい “まゆ毛フェチ” だとしたら・・・、と考えてみるのもちょっとおもしろいのではないか。
おそらく彼は少年のときからまゆ毛がリッパだったのだ。
70歳前後の現在の顔からもうかがわれるが、子供のころも紅顔の美少年にはほど遠かったにちがいない。
だがまゆだけは違った。
「○○クンのまゆ、リッパだねえ。太くて、堂々としてて・・・」
「ほんとだねえ。これぞ男のまゆ・・・って感じだね」
「誰かのまゆに似ていると思ったら、武田信玄のまゆはこんなのじゃなかったっけ?」
などと、周囲のおとなたちが無責任なことを言ったのかもしれん。ほかにほめるところがないから、親のてまえ・・・。
そこで○○クン、たしかにほかに何も取り柄がないし、つい自分でも錯覚したのではないか。自分のまゆ毛はリッパなんだと。
そこから特別の思い入れを持つようになった・・・ということは考えられる。
それが古希といわれる年齢になっても、いわば彼のレーゾンデートルであり続けているのかもしれない。
ゆえに、染毛をはじめとするまゆ毛の手入れを、いまなお日々怠らない・・・のかもしれない。
・・・とすると先ほど、チラチラ彼を見るわしを見返した目も、決して気を悪くした目ではなく、むしろ自尊心をくすぐられて得意の色を宿した目だったのかもしれん。
アホくさ! 相変わらずヒマだねえ、あんた。
あははは♪
暇だから、読んで笑っちゃいました♪
そんだけ、頭使ったら「本ボケじじい」にはなりません(笑)
向こうの爺さんも「あの爺さん、わしの眉毛に見とれておったわ♪ムフフ♪」なんて上機嫌で帰ったかもよ~~~
あの黒まゆげ爺さん、こんど出会ったら軽く挨拶でもして、
ちょっと話でもしてみようか思ってるんだけど、
あれ以来ぜんぜん会わない。
まさかあの爺さん、たまたまこのブログ読んで、
これ自分のことじゃないか! と気づいて、
図書館へ行くのを控えてるんじゃなければいいだけど。
・・・なんてことはまあないわナ。