真夜中のポルノ(上)

児童ポルノ摘発

 新年の突端(トッパナ)、平成30年元日の読売新聞・朝刊の第1面は、ご祝儀写真(羽生善治と藤井聡太のツーショット)を除けば、次のふたつの記事が紙面を占めていた。
 ひとつは、中国とロシアが北朝鮮への石油密輸に密かにかかわっていて、国連制裁の抜け穴になっていることを暴露したスクープ記事。
 そしてもうひとつは、日本の児童ポルノサイトが摘発されて、多数の人たちが書類送検されるという記事だった。
 
 俗人のわしの目を引いたのは、石油密輸より “児童ポルノ摘発” のほうだった。
 なぜなら、その記事は一瞬目を疑うようなモノだったからだ。
 
 2017年5月、警視庁がとある児童ポルノ販売サイトを摘発した。
 そのさい約7200人分の「ポルノ購入者リスト」が押収された。
 そしてそのリストのなかに、先ほどわしが「ちょっと目を疑うような」と表現した肩書・職業の男たちの名前が含まれていた。
  東京地検公安部の検事
  皇宮警察の巡査部長
  警視庁の警部補、巡査、一般職員
  高知県警の巡査長
  大手企業社員
  大学教授
  県会議員
  都職員
  医師
  教師
  僧侶 
  自衛官
  人気漫画『るろうに剣心』(映画化されて大ヒットしテレビでも放映された)の作者 など。

 しかしこれは、少し考えてみれば、別に目を疑う必要などなかった。一瞬にせよそう思ったのは、わしがふだん雑な頭の使い方をしているせいだ。
 なぜなら、これら比較的高学歴、社会の指導的立場にいる人たちでも、人間であることに変わりはないからである。彼らだって生きものなのだ。

 だが人間は、自制心というものを持っている。
 ふつうは、その自制心が働いて行動を抑制する。たとえ人間として、あるいは生きものとしてあるコトをしたいと欲したとしても、それが反社会的な行為(とされているもの)であるなら、また発覚すると社会から罰せられると知っていれば、自制する。それによって社会の秩序が保たれている。

 しかし時には、運のわるい条件が重って、ふっと自制心がゆるむときがある。あるいは自制のタガが外れる瞬間がある。
 そして、そういう悪い条件がたまたま重なる時運の流れは、人間がコントロールできる領域を超えている。

 それを考えると、”絶対的正義の斧” をふりおろして彼らを断罪することは酷であるような気がする。少なくともわしにはできない。
 なぜなら、わしだってたまたま悪い条件が重なれば、反社会的行為をぜったいにしないと言いきれる自信がないからだ。
 いや白状すると、実は現実にしたことがある。

 小学校4年生の夏休みだった。この年齢の少年は食べ盛りまっ最中だが、わしは運わるく敗戦直後の食糧難時代だった。いつもピーピー腹を空かせていた。
 そんなある日、なにか悪さでもしたのだろう、昼めしを食べさせてもらえなかった。わしは外に出てふらふら歩き、たまたま目にとまった他家の畑の作物を盗んで食べた。生でも食べられるトマトやキューリだ。周辺に人のいないのを確かめて、ひとつもいで食べたら止まらなくなり、狂ったようにいくつも盗んで食べた。そしていちもくさんに逃げた。

 こういう子供らの畑盗っ人は当時少なくなかったけれど、違う状況下だったら発生しないですんだかもしれない。
 たとえばわしの場合、もし近くに・・・いや遠くにでも人影ひとつあれば、おそらく盗っ人にはならなかったと思うし、辺りに猫の子いっぴきいなくても、昼めしを抜かれていなかったら盗みをする必要はなかっただろう。
 また、夏の日盛りに畑にでる人はまずいなかったから、食事を抜かれたのが昼食ではなく朝食だったら、ふてくされて外をほっつき歩いても、畑には人の目があっただろう。

 あのとき、たまたまいくつかの条件が重なって、わしは盗みを働いた。
 それで犯した罪が許されるわけではないけれど、たまたまある条件がそろって足をすくわれる人間のこうした過ちは、多少大目に見るところがあってもいいのでは・・・という気がする。
 ポルノで摘発された人たちに私がやや同情的なのも、小さいけれどこういう経験があるからである。

 というわけで、何であれひそかにスネにキズをもつ者は、書家・相田みつをのつぎの有名な書は、肩にそっと手を置かれたたような気持ちにさせてくれる。
「つまづいたっていいじゃないか。人間だもの」

 当記事のタイトルは「真夜中のポルノ」である。
 看板にいつわりありじゃないの? と言われそうだ。なにせここまで “真っ昼間” のことしか書いてないもの。
 じつは、看板にふさわしい話はこれからなのだが、すでに長くなっているし、わしも少々疲れてきたので、”真夜中” の話は次回にまわすことにする。
 ごめん。

ポチッとしてもらえると、張り合いが出て、老骨にムチ打てるよ

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