運命を変えかけたペットボトル

ペットボトル

 半月ほど前のことだった。
 西日本や関西を猛襲した台風の余波だろう、わしの住む辺りにも突風のような強い風が吹く日が多かった。
 そんなある日、街へ出る途中で強い風に急襲されて、思わず立ち尽くすことが何度かあった。

 それはそんな中で起きた。
 1本の空のペットボトルが風に飛ばされて、向こうからかなりの勢いでわしの方へ転がってきた。2リットル入りの空のペットボトルである。中が空なので反響するのか、転がる音もかなり派手だった。

 わしはそのとき、車道に沿った歩道を歩いていた。
 片道1車線の車道には車が行き交っていたが、強風のせいか歩道には一組の母子以外ほとんど人がいなかった。
 だが、こんな猛スピードですっ飛んでくるペットボトルの硬い部分が、歩道の後方にいる小さな子どもの顔にでも当たれば、思わぬケガにならないとも限らない。
 ・・・と、とっさにそう思ったわしは、わしの脇を通り抜けようとしたそのペットボトルに足を出して、止めようとした。

 だがそれは、身の程知らずの行為以外の何ものでもなかった。
 猛スピードで転がるペットボトルを、老いた足で踏み押さえようとするなんて、カエルがジャンプして空のタカを捕らえようとするようなものだ。反射的反応だったとはいえ、よくぞ頭はそんな発想をしたものだと呆れる。

 結果、わしは思わずバランスを崩して倒れそうになった。
 かろうじて何とか踏みとどまったものの、もし運が悪ければ子供の顔を傷つけるかわりに、わし自身が歩道わきの石に頭をぶつけて大怪我、もしくはあの世行の切符を手渡されていたかもしれない。

 そんな状態になりながらも、実はわしの出した足はペットボトルの一部に触ったのである。
 そのためペットボトルは、それまで走ってきた歩道から車道へ方向転換した。多少勢いは弱まったものの、車道を斜めに横断するかたちでさらに転がっていった。

 とばっちりを受けたのは車道を走っていた車のドライバーだ。
 とつぜんペットボトルが歩道から飛び出してきて、踊るように跳ねながら目の前に迫ったのだ。
 ドライバーは反射的に急ブレーキをかけながらハンドルを切った。
 幸いにもそのとき、対向車と後続車とのあいだに距離があり、正面衝突や追突は避けられた。
 車はABS(アンチロック・ブレーキシステム)を搭載していたらしく、対向車線へはみ出しかけたものの、すぐに元の車線に戻った。
 ペシャンコになることを免れた運の強いペットボトルは、ユーユーと車道を渡りきり、反対側の歩道に乗り上げてなおも転がって行く。

 顔を見たわけではないが、おそらく車のドライバーは運転席で額を蒼くしていただろう。傍観していたわしも内心青ざめた。
 自分の出したちょっとしたちょっかいが、あわや大事故を作りだしそうになったことにおののいたのである。

 悪気はまるでなかった。だが小さな不用意な行為が、人のいない歩道を転がっていたペットボトルの向きを変えた。その結果、車道を走っていた車のドライバーにとっさの反射反応をさせて、まかりまちがえば大事故になっていてもおかしくはなかった。

 事故に巻き込まれたかもしれない人たちには、もちろんそれぞれの人生があり生活があり、仕事がある。家族もいる。
 もし事故が起きていたら、それらに関わる人々やその家族の人生の向きを、大きく狂わせていたかもしれない。彼らになんの恨みも憎しみもないわしの、ちょっとした軽はずみの行為のせいで。

 それを思ってわしは戦慄したのだった。

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当ブログは週2回の更新(月曜と金曜)を原則にしております。いつなんどきすってんコロリンと転んで、あの世へ引っ越しすることになるかもわかりませんけど、ま、それまではね。

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