インフルヤクザが教えてくれたこと

 
 
インフルエンザ

 今年の冬のインフルエンザは、例年より勢いが強いといわれた去年にもまさるらしい。
 わしは運のわるいことに、早々とこの “インフルヤクザ” にとっ捕まった。
 「インフル」と「ヤクザ」くっつけたのはわしのカッテな思いつきだがが、まさに “ヤクザ” と呼ぶにふさわしいヤツだった。案内もこわずにズカズカと人の家にあがりこんできて、勝手気ままにふるまい放題。

 まず夜中にとつぜん全身の骨や関節や筋肉が痛くなる。そしてときおり全身に悪寒がおそう。体のなかで稲妻が走ったみたいに、内部からつきあげてくる気持ちの悪いつよい寒け。からだがガタガタ震える。・・・と思うまもなく40度前後の熱だ。そのあとに鼻水や咳や痰や頭痛がつづいて、それぞれが傍若無人。

 何より痛みのタチがわるい。
 全身で発生して、高熱がからんでいるせいか、どろどろの熱い油の中でユダユダ煮立てられている感じの痛みなのだ。どうしていいか分からず、どうにかしてくれ、と叫びつづけるが、どうにもならない。ま、早い話、地獄デス。

 そういうのが三日ほど続いたころだった。トイレに立ったが足腰に妙に力が入らない。それまでも用足しのたびに足元はふらついたが、この日はさらにその感が際立った。勝手に入りこんだ人の体のなかで、インフルヤクザはわが世の春を謳歌しているらしい。

 こともあろうにそんなときに、運わるくシャックリが出はじめた。わざわざこんなときに出てくることもなかろうに、こいつがまた勢いのあるシャックリで、なかなか止まらない。

 だがわしは実はシャックリの止め方を知っていた。それを行うとほぼ確実に止まるのだ。
 口と胃袋を、通常とは上下逆にする・・つまり胃袋の位置が口より上にくるような体の状態にしておいて、口から水を飲む。

 わが家の洗面室は、廊下より10センチほど床が高い。この洗面室にしゃがみこんで、上半身を廊下側へ突き出し顔を床板に近づければ、口と胃袋の位置を上下逆転状態にすることができる。ま、あまり人に見せたくない図だが、この状態で水を飲めばシャックリは止まる。

 わしは止まらないシャックリがうっとうしくて、インフルヤクザが暴れ回るなかでこれをやった。期待どおりたちどころにシャックリは止まった。

 だがその後に、予期せぬ事態が起きた。廊下の床から上半身を起こせなくなったのだ。両腕にまったく力が入らないのである。

 腕の筋肉の問題なのか、脳の指令を筋肉につたえる神経線維の問題なのか分からないが、とにかくインフルヤクザ菌のせいで腕が完全に役立たずになったのは間違いなかった。どんなに気合を入れても、必死になって腕を立てようとしても、その意思が腕の筋肉に伝わらない。蝶が真空状態のなかで飛ぼうとしている感じ。(「蝶」のタトエがわしに似合わないっていうなら「蛾」でもいいよ)

 ともあれひとしきり足掻いて無駄だと分かると、わしはしばらく自分を放置した。冷たい廊下の床に顔を押し付けたままじっとしていた。だってほかにどうしようもなかったもん。
 するとそういう自分の姿が、あたかももう一人の自分が上の方から見ているように、客観的に見えた。
 廊下の床に、叩きつけられたカエルのように長々と伸びている自分。
 自分の力では何もできない自分。
 哀しみとも自己憐憫ともつかぬものが湧き出た。

 それにしても、自分の体をおのれの意思で思うように動かせないというのは、なんという惨めな気分であることか。
 それをこのとき初めてほんとうに知った。
 人生100年時代とかいわれて、日常生活に介護を必要とする人はたくさんいる。だがそういう人たちの気持ちをリアルに想像したことがなかったし、することができなかった。

 他人の手を借りなければ生きていけないというのは、しかもそれが死ぬまで続くとすれば、どんなにツライことであろうかと思わずにおれなかった。

 けっこうしんどいインフルヤクザがとの闘いだったが、このことを自分の体でリアルに知りえたのは収穫だった。

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