わが愛しのエプロン

エプロン

 このあいだの新聞の読者投稿欄に、こんな話を投稿した老女がいた。
 嫁にきて間もないころ、いつもよれよれのエプロンをしている姑に、洒落たデザインのエプロンを、母の日のプレゼントに贈った。すると、
「これを着て目いっぱい働けということかい」
 と言われて悲しい思いをした・・・と。
 投稿にはなにも書いてなかったが、それ以降の “嫁・姑戦争” が目に浮かぶようだネ。

 ところでわしのエプロンだが、わがエプロンは丸ごと紺色である。
 胸当て付きで、紐からボタンの色まで他の色はいっさい混じらない紺一色。そこが気に入っている。ぼろは着ててもこころは錦、どうせこの世はいっぽんどっこ・・・なんてこと言いたいわけじゃないよ。

 着脱が簡単なのも、気に入っている理由のひとつだ。上部の紐をひょいと首にかけ、腰あたりで左右の紐を後ろで結ぶだけ。
 一度このエプロンが見つからず、カミさんのを借りたら、スカートみたいに足から穿いて胸まで引っぱり上げなきゃならなかった。面倒なだけでなく、なんとなく気分がよくない。ずた袋の中にみずから入ってくみたいで・・・。
 で、この紺一色、着脱軽快、いっぽんどっこ・・・のこのエプロンを愛用している。
 
 わしがエプロンとまともに付き合うようになったのは、リタイアした20年以上も前である。
 その頃のことはもうだいぶ前に当ブログに書いている。定年退職後、いきなり放り込まれた “退屈の海” に溺れそうになって、必死にすがりついた一本のワラがキッチンへ入る扉だった。いまは当たり前になったが、当時はまだそれほど一般的ではなかった “男子厨房に入る” を決心したときだった。

 そのとき、初陣の若武者が鎧兜を新調する心意気で、自分専用のエプロンを東急ハンズで買ったのだが、結果は惨敗。ミジメ~な気分を味わった。詳しくはその経緯をルル書いた『キッチン・バトル ‐年寄りの水あそび‐』を読んでみて。
 
 さて、その後しばらくはエプロンとはご無沙汰していたが、最近またちょくちょく首に掛けるようになった。
 
 ところで寄る年波は、生活のあらゆるところに波及する。おとなしいツナミが夜陸に上がってくるように。
 たとえばちかごろカミさんは、夕食が終わるとすぐトロトロするようになった。なんとなく隣の空気が薄いので目をやると、しおれた花みたいに首をたれてお眠りだ。テレビの音が変わるとハッと目をあけて、ちゃんと画面を見ているような顔をするが、数秒後には再びしおれたお花。
 で、夕食後の食器洗いはわしがやることになった。

 また、眼瞼挙筋(要するにマブタを引き上げる筋肉ね)とともに、カミさんは腕の力も弱くなった。まな板のうえでカボチャのような固い食材を切るのに難儀する。夜中に7人のこびとが来て助けてくれないからネ、わしが助けるしかない。こびとのような愛嬌はないけど、ま、そこはガマンしてもらう。
 ま、そんなこんなで、ふたたび毎日エプロンの紐を首にかけるようになった。紐に首をかけるんじゃないよ。
 
 何やら、なんもかもカミさんが理由のような口調だけど、実をいうともう5,6年も前から、ほかならぬわし自身が原因でエプロンの世話になっていることを告白する。
 カッコよくない話なのであまり書きたくないのだが、そのころより箸から食べものがよく落ちるようになったのだ。注意していてもなぜかヤツらは勝手に落ちたがる。なぜか?・・・って万有引力のせいだってことくらい知ってるよ。

 するとカミさんは、他のことでは(…例えば目の前のメガネは目に入らないのに)わしが箸から落とす食いものにはやたら目ざとい。百発百中の狙撃兵も負けそうなくらい、見逃さない。「ほら、また落ちたわよ」と弾が飛んでくる。「イイ大人が、食べものを落として服を汚すなんて、サイテー」と、口では言わなくても目が言っている。
 
 だが、これとて加齢がひと口噛んでいる。くやしいが努力だけでは改善できない。そこで発想を変えた。落ちるほうではなく、受ける側で対応することにした。エプロンの援助を乞うたわけだ。
 エプロンなら汚れても簡単に洗える。多少シミが付いても、エプロン姿で人前に立つことはないしね(生活協同組合の配達員のお兄さんは別ね)。
 
 ・・・というわけで、わしとエプロンとは、淡いようでいてけっこう深い関係の、援助交際相手である。

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