年をとってから引っ越しするとこうなる(2)
前回、老いぼれ高齢者夫婦が、老骨を引っさげて孤立無援の引っ越しをする経緯・・・というか前説みないなのを書いたが、今回はその “実況中継” の第1報である。(前回はこちら)
今回わしらが引っ越す先は、亡くなったカミさんの母親がこのあいだまで住んでいたマンションである。
この母親は、生きているときから当ブログにもたびたび登場してもらい、100歳になる寸前に突然亡くなった時のことも何度かに分けて書いている。以前からこのブログを読んでくださっている方は、ああ、あの強気のおばあさんか・・・と思い出されるかもしれない。
その義母の死によって、彼女の住んでいた住居をカミさんが相続することになった。わしらがいま住んでいる住居は賃貸なので、カミさんの持ち家に移れば家賃が不要になる。
わが身の恥をさらすようだが、わしは成人して実家を出て以来、ずっと借家住まいだった。人生の終着駅がすぐ近くに見える年になって初めて、借家暮らしから脱出できることになったわけである。
もちろんうれしいことはうれしいが、カミさんの老母が遺してくれた遺産のおかげ・・・つまりわし自身の甲斐性とはまったく関係ないところが情けないといえば情けない。
が、まあ、そういう負け犬の泣き声はクソの役にも立たないから聞き流していただくとして(コトバが下品でごめん)、まずわしらがイの一番にやったのは “ゴミ捨て” である。
最近まで義母の住居だった家に転居するには、まずその家に収まっているものを取り除かなければならない。
義母が飲んでいた水は、すべてではないが、まあ多くが大正風味である。昭和生まれにはこれをまずなんとかする必要があった。スペースには限りがあるからだ。多少許せるいくつかを除いて、とにかくわしらにとって不要なものを捨てはじめた。
家とはスゴイものだと改めて感じ入った。狭い空間なのに、けっこう多くのモノが詰めこまれている。まあ次から次へと出てくる。なぜこんなものを後生大事に取ってあるのか、考え始めると眠れなくなりそうなものまである。
たとえば割り箸やストロー。
元菓子箱などの箱に、外で駅弁やテイクアウト食を買うと付いてくる割り箸が、何十本何百本(膳)と仕舞ってある。色とりどりのストローも・・・。
あるいは湿気をきらうモノや、腐りやすい食品のなかに入っている乾燥剤や保冷剤。これらもそれぞれ缶に入れていっぱい取ってある。
あるいは何年も前のカレンダー。年の瀬ごとにどっかから貰ったものだろうが、それらが巻物のように巻かれて何十本もしまってあって、天袋を開けるとゴロゴロと転がり出ておデコに当たる。義母の過去の時間の雪崩れに襲われる感じ。
さらには、おびただしい数の空き箱と空き缶。場所ふさぎの筆頭だが、中はすべて空っぽ。誰かの頭みたい。・・・なんてコト言ってるとヤブヘビになるナ。
極めつきはビニール袋だ。スーパーや商店などで、買ったモノを入れてくれるアレ。
義母はこれらのビニール袋を、一辺が4,5センチくらいの三角形に小さくきれいに畳みこむ。その三角形が、複数の大きな紙袋やボール箱のなかにいっぱいに入れて取ってある。おそらく数えれば数百じゃすまないだろう。数千個はあるかもしれない。そのあまりの数にボー然としながら、これが大判小判だったらいいのになァ・・・などとわしの考えることはケチ臭い。ヒンすればドンするデスな。
よく聞くが、物のないころに育ったひとは、なんでも溜めこむ習性があるという。わしらにもその傾向はたぶんにあるが、義母には勝てない。
一方でふと思った。
義母は日々の買い物をして帰宅したあと、役目を終えたビニール袋をくしゃくしゃにして捨てるのではなく、テーブルの上で手のひらでていねいにしわを伸ばし、さらにきれいに折りたたんで保存する。
そういった作業こそが、彼女にとって生きるということだったのではないか。些細でとるに足りない小さなことではあるけれど、生活にかかわるそういう小さな事柄にきちんきちんとていねいに向き合うことこそ、生涯専業主婦だった彼女が生きることの現実であり、そこにはささやかな達成感や満足感もあったのではないか・・・と。
虎は死して皮を残すという。義母は死して割り箸とストローとビニール袋を残した。
わしには虎の皮より、割り箸やビニール袋のほうが貴いような気がする。身内の身びいきかもしれないけど・・・。(次回はこちら)
当ブログは週2回の更新(月曜と金曜)を原則にしております。いつなんどきすってんコロリンと転んで、あの世へ引っ越しすることになるかもわかりませんけど、ま、それまではね。
初めまして。ヒロコと言う名の還暦過ぎのおばさんです。今日初めてボケモン島blog見つけて、あまりの面白さにびっくり!主人の姉もビニール袋の三角折を作ってました。すでに天国にお引越しされたので、なつかしかったです。お引越し大変ですね。お体大切にして、無事終了すること願ってます。
ヒロコ様
ボケモン島をお訪ねくださりありがとうございます。
還暦すぎとはなんという若さ。
わしより20歳も若い。
若さの凄さは失ってみて初めて分かります。
若さを失ってから引っ越しを始めるなんて、
バカなことを始めたおかげで、フーフー、ヒーヒー
言ってます。
まあ、笑ってやってください。
そのうちふと気づくとと、自分もそうなってますから。
(半ボケじじィ)