コロナウイルスの急襲

 わしは「寒暖差アレルギー性鼻炎」という持病をもっている。

 気温差が原因となって生じる鼻炎で、くしゃみ、鼻水、鼻づまりのほか、食欲不振、疲れやすいといった症状がみられ、ひどいのになると蕁麻疹が出たり呼吸困難を引き起こしたりする・・・と家庭医学書に解説されているが、わしのはそんな重症ではない。ただ、気温の低下を体のどこかが感知すると、とたんに鼻がむず痒くなって、くしゃみを連発し、鼻水が出る。
 
 冬はおよそ数日に1回くらいそんな発作が出るのだが、ふだんはそれで何かが困るということはない。何回か連発するくしゃみをやり過ごし、そのあとに出る鼻水をティッシュで拭き取れば、何の問題もない。
 
 ところが近ごろ、この持病が困った問題を引き起こすことになった。
 例の新型コロナウイルスのせいである。
 
 周知のようにこのウイルスは、いま世界じゅうに恐慌をまき散らし、政治・経済・社会に大きな影響を及ぼしているが、それにとどまらない。一介の老人にすぎないわしの所にまでノコノコやってきて、厄介な問題を引き起こした。
 
 このウイルスは、咳やくしゃみの飛沫によって感染する。
 ・・・とテレビ・新聞がくり返し叫ぶものだから、いまや幼稚園児でさえ、ティラノサウルスは知らなくても、新型コロナウイルスは知っている。
 
 で、先日、わしに災難が降りかかった。
 たまたま乗ったバスのなかで、この持病のアレルギー性鼻炎の発作が出たのである。バスにはこれまで何十回となく乗っているけれど、乗車中に発作が出たことはなかったので、大丈夫だろうと甘く見たところに油断があった。
 
 もちろん外出するときは常にマスクを携帯しているし、このときもバスに乗る前からちゃんと使用していた。しかし車中でくしゃみが連発すると、マスクを掛けていてもなんの意味もなさないことがわかった。
 
 ふいに鼻がむず痒くなって慌てた。
 うろたえてマスクの上から鼻翼を指で強くつまんで抑え込もうとしたが、ダメだった。こうなったらもうぐずり始めた3歳児どうよう、くしゃみの連発を止めることはできない。収まるまで最低でも5,6回はつづく。
 
 周辺の乗客たちがいっせいにこっちを見た。
 やや誇張していえばサソリか毒ヘビでも見る目。
 ここで、「コロナウイルスじゃありません、アレルギー性鼻炎なんです」などと声を上げることは、かえって事態を悪くすると直感的に感じた。
 
 さいわい座席にすわっていたので、膝の上に屈みこみ、マスクの上からさらに腕を曲げて口をおおいながら、6,7回ほどくしゃみをした。
 
 ようやく収まって周辺の様子をうかがうと、立っている乗客たちは皆わしの周りから遠ざかっていた。周辺に空きができている。
 
 遠巻きの乗客たちの表情はいかにも冷ややかだった。目に不快の色がありありだ。
 
 目的地ではなかったが、わしは次の停留所でバスを降りた。
 
 外は冬にしては暖かい日で、陽の光がサンサン・・・といった感じで降りそそいでいたが、心は冷えていた。
 わしは首のマフラーを巻きなおして、目的地まで2停留所分を歩いた。
 
 それいらい乗り物にのれない。
 

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コロナウイルスの急襲” に対して 2 件のコメントがあります

  1. むらさき より:

    なんということ!
    実は私も杉花粉で鼻がムズムズ、買おうにもマスクはないし自家製手作りマスクで応戦中❗️
    山奥は、人混みもなければ公共交通もないので、人の視線を浴びる事もありません❗️もともと人が居ませんから~(;´∀`)
    徒歩徒歩して、健康維持ってことで(^^)v

    1. Hanboke-jiji より:

      いやあ、わしのようなところにまでトバッチリがくるなんて!
      それにしてもむらさきさんはいい所に住んでますなあ。

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