密室の中へどうして入ったか

 前回、BS用アンテナ線をベランダから室内へ引き込むために、サッシ上部の換気窓を、アンテナ線の直径分だけ開けたままにした経緯を書いた。 

 1年中そのままなので、冬の寒風や夏の熱風はもちろん、ハエもカも出入り自由だったが、BS放送を見るために、その不都合には目をつむっていた。
 
 当ブログの、2019年5月7日付け記事に書いているが、この部屋はかつては義父母夫婦が入っていて、義父が先に逝ってからは、義母がひとりで住んでいた。(参照→こちら
 
 そしてある朝、脳梗塞で倒れた。そばに誰もいなかった。
 その朝、義母が行くはずだったデイサービスに来ないので、施設から娘のカミさんに電話がかかってきた。それで初めて異常が起きていることを知った。

 だが当該マンションの鍵を持っているのは、世界にカミさん1人だけだ。ただちに向かうにしても2時間はかかる。
 電話で救急車の出動を要請した。
 
 だが問題があった。
 義母が住むマンションの部屋に入るには、一つは玄関から、もう一つはベランダからだが、玄関はもちろん、ベランダ側のサッシ窓にも鍵が掛かっている可能性が高かった。
 場合によっては、窓ガラスを割って入ることになるが・・・と救急要請をした際あらかじめ了承を求められた。
 
 あとになって分かったのだが、やはり玄関にもベランダ側のサッシ窓にも、鍵が掛かっていた。
 にもかかわらず救急隊員は、ガラス窓を割らずに中へ入り、キッチンで倒れていた義母を救出した。
 
 推理小説の密室殺人と同じ状況である。
 救急隊員はいったいどのようにして、密室状態だったマンションの部屋の中へ入ったのか。
 
 鍵はアンテナ線である。
 前回に書いたように、ベランダの手すりにはパラボラアンテナが設置されていて、そこからの引き込み線が、サッシ窓上部の換気窓を1センチほど開けて、室内へ引き入れられていた。
 救急隊員は、メタボだったら入れないくらいの換気窓へ体を押し込んで室内へ入ったのだ。さすがプロである。

 ・・・と感心しながら、一方で思った。
 前回に書いたように、わしらが引っ越しの際サッシ窓を新しいものに取り換えたとき、寒風やハエやカに自由通行をさせないように、建具屋さんが気をきかしてくれた。サッシの枠に、アンテナ線を通すだけの穴をあけて引きこみ、換気窓を開けたままにしないですむようにしてくれた。
 
 それはそれでありがたいのだが、他方で思った。
 もしわしらのどちらかが1人になって、室内で倒れたら、アンテナ線の手引きがないから、正真正銘の密室状態になり、助けてもらえないなァ、と。
 物事には必ずプラスとマイナスの両面があるというが、まさにその一例だなァ、などと。
 
 しかし、そのあとで笑ってしまった。
 そういう緊急時には、さっさとサッシ窓のガラスを割ればいいではないかと。
 人間ひとりの命が、助かるか助からないかの瀬戸際なのだ。

 ・・・ということに気づいたとき、わしは愕然とした。
 わしは自分の命を、サッシ窓のガラス1枚と天秤にかけていたことに。
 
 もっとも、じっさい軽いからねぇ。タテマエじゃない生の人間の命なんて・・・。
 

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