ベランダの発見
わが家のベランダは陽だまりの優等生である。
光が差しこむのは南方向からだが、それ以外の三方には風をさえぎる壁があるので、お天気の日はタプタプと陽がたまる。
そんなときベランダに出ると、真冬でも、春のまん中を泳ぐ蝶のような気分になる。・・・ときがある。
先だっても、べつに用もないのにベランダに出た。
昔ならたぶんくつろいで “紫煙をくゆらす” ところだが、今はそういうのは推奨されない。(わしもタバコをやめて40年になる)
で、紫煙のかわりに、カミさんが育てている鉢植えの草花のあいだを歩く。
たまにしゃがんで花に顔を近づけ、小さいのに複雑な形をしている自然の造形美に感嘆する。・・・ときもある。
しかし、しゃがんでいる時間がちょっと長くなると、立ち上がったとき足腰に痛みが走る。ときに頭がふらつくことも・・・。
先だっても頭がふらっとした。
いそいで足をふんばり、目をつむって顔を仰向け、しばらくじっとしていたら治まったので、まぶたを開けると、その視線の先にそれまで気がつかなかったものが目に入った。
衛生放送のアンテナ線である。
サッシ窓のアルミ枠に穴をあけて、室内に引き入れられている。
このマンションはかつてカミさんの両親が住んでいた。
2人ともぶじあの世へ旅立ち、ほぼ1年半ほど前からわしらが入っている。
引っ越したとき、一部をリフォームした。
そのとき、ベランダに接している、わしら同様足周りにガタのきたサッシ窓を新しいのに取り替えた。
以前は、アンテナ線を室内へ引き込むために、サッシ上部のランマ窓(換気窓)をすこし開けたままにしていた。
最初はすき間部分に新聞紙を折り畳んでつめていたのだが、そのうち外れてしまい、そのままになった。
つまりアンテナ線の直径1センチ分ほどは、風や砂ぼこりだけでなく、蚊やハエも出入り自由だった。
そういうEUみたいな通行自由は、住む者にとってはあまりうれしい状況ではない。
で、サッシ屋さんが気を利かして、新しいサッシに取り換える際、アルミ枠にわざわざ小さな穴をあけてアンテナ線を通し、寒風やホコリその他が出入りできないようにしてくれたのだ。
そういう細工をしたとは聞いていなかったし、天井に近い位置で、そんな所へ目をやる機会がなかったので、このときまでは気がつかなかったのである。
だが、こういう目につかない所にこそ、その人の仕事ぶりが出る。
この建具屋さんがどういう人か分かる。
次もこの建具屋さんに頼むだろう。
まだ生きてればね。
当ブログは週2回の更新(月曜と金曜)を原則にしております。いつなんどきすってんコロリンと転んで、あの世へ引っ越しすることになるかもわかりませんけど、ま、それまではね。