男が女用トイレに入ったら
厚労省から発表された「平成28年人口動態統計」によると、日本人の死因の第1位は「悪性新生物(いわゆるガン)」で、2位が「心疾患(心臓病)」、3位が「肺炎」だそうだ。
そして肺炎で亡くなる人の約95%が、65歳以上の高齢者で占められているので、肺炎は老人の親友であるといえる。抵抗力がないので、かんたんにすぐ死と肩を組むらしい。
しかも、高齢者の肺炎の大部分が “誤嚥性肺炎” であると報告されている。(第54回日本老年医学会学術集会記録)
ということは、日本人の死亡原因の第3位は、老人の誤嚥性肺炎である、と言い換えることもできそうだ。
”誤嚥(ごえん)” とは、ひと言でいえば飲食物の飲み込みエラーのことである。
口から入った飲食物はノドの奥で食道へ入り、酸素摂取のため吸いこんだ空気は気管へ入る。
ところが飲食物が食道ではなくあやまって気管のほうへ入ってしまうのが誤嚥だ。男がまちがえて女用トイレに入るようなものだが、根本的にちがうのは、誤嚥は意図して入り口をまちがえるわけではないことだ。
さて、まちがって気管に入った飲食物は、口のなかの雑菌もいっしょに連れて入ってしまう。それが問題を起こす。連れてきた細菌が肺のなかで悪さをして、肺炎を引き起こす。それが “誤嚥性肺炎” だ。
子連れの押しかけ女房に似ているが、押しかけ女房が狙うのは総じて金のある独身男だけど、誤嚥性肺炎のギセイになるのは、多くは金力も筋力もない爺さん婆さんである、という点がちがう。
ともあれ、老人にとって誤嚥性肺炎は怖い。防ぐにはどうすればいいか。
先日テレビの医療番組がこのテーマを取り上げていた。名医と呼ばれる医者が言った。
「要するに食べるものを誤嚥しないようにすればいいのです」。
そんなことはわざわざ名医に言ってもらわなくても分かる。
「老人が転ばないようにするには、転ばなければいいのです」と言ってるのと同じだ。
が、さすがは名医、それだけで終わらなかった。
「誤嚥しないようにするには、ノドの筋肉を鍛えることが大切です。高齢者に誤嚥が多いのは、加齢によって他のすべての筋肉同様、ノドの筋肉もヘタってきているからです」
この医者の言うことはなんか癇にさわる。「他のすべての筋肉同様」はよけいじゃないか。それに「へたる」なんて小バカにしたようなことばを使わなくても、「衰える」とか「弱る」とかいえば用は足りる。
医者はさらに続けた。
「では、筋肉を鍛えるにはどうすればいいか。一つはカラオケに行くことです。はた迷惑かもしれないが、できるだけ大声をだして歌う。オンチでも調子っぱずれでも結構です」
当人は結構だろうが、ハタにいる者は結構ではない。
医者はさらに続けた。
「もう一つの方法は、ノドの体操をやることです」
そう言って「のど仏スクワット」というのと、「口辺ストレッチ」という体操を指導した。
唾を呑みこむと「のど仏」が上へあがる。のどへ指を当てているとそれが分かる。そのまま5秒ほど上がったままにする。これが「のど仏スクワット」。
「口辺ストレッチ」は、文字どおり口の周辺の筋肉を引き伸ばす。
まずは口をできるだけ大きく開けて、5秒間そのまま保持する。
番組ゲストの少女アイドルが、言われるままバカ正直に大口を開けてのどチンコまで見せていたのが可愛かった。(おまえどこを見てるんだ?)
次に唇の両端をイヤというほど左右に引きのばして、やはり5秒間保持する。
さらに唇を思いきり前へ突きだす。好きでたまらん異性とキスするときのように。5秒保持。
最後は口をやはり大きく開けて、ベロをこれでもかというほど前へ出す。(出した舌先で牛みたいに鼻の穴をそうじする必要はない)
この番組を熱心に見たのは、誤嚥問題は他人事ではないからだ。わしだってうっかりすると女用便所に飛び込みかねない。(意図的にじゃないぞ)
ただこの手の番組は、見て感心したただけでは意味がない。実際にすぐ自分でやってみなければ。
すぐやらないとダメなのはすぐ忘れるからだ。アレ、口を開けたりキスしたりするのは何秒間だったっけ・・・なんてことになり、めんどくさくなってやめてしまう・・・という結果になることが多い。
そこでわしは速攻やってみた。
ハタ迷惑になるのはイサギよしとしないので、カラオケは避けてノド体操にした。
そのために時間を割いてやろうとすると1週間と続かないので、2017年8月7日の記事に書いたように、すでに習慣化しているウォーキングと抱き合わせにした。その効あって今も続いている。(2017年8月7日の記事『ボケじじィの“にらみ”』はこちらから)
これが本当に誤嚥予防に効果があるのだどうかは、分からない。
分からないができるだけ続けてみるつもりだ。根性曲がりの “連れ子” に悪さされて生命を終える、なんてのはわが美意識に反する。
・・・というか、とにかく、ごえんはごめんだ。